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Vol.127【IPO事前準備】スケジュールと監査契約

  • 2021.4.17

株式新規上場(IPO)のための事前準備ガイドブック

今回は、日本公認会計士協会から公表されている
「株式新規上場(IPO)のための事前準備ガイドブック」
について、ご紹介をさせていただきたいと思います。

まずこのガイドブックの目的としては、
——————————————————–
1 IPOまでのスケジュールと各段階において対応すべきポイントの理解促進
2 決算体制の整備に向けた大切なポイントの理解促進
3 上場申請のための監査契約締結についての理解促進
——————————————————–
と記載されています。

 

これからIPOを目指す際に、
避けては通れないのが「会計監査対応」となりますが、
とくに、この監査視点にフォーカスをして、
まとめられたガイドブックになっています。

このガイドブックは具体的には、
———————————————
1. IPOまでの標準的スケジュール
2. IPOを目指すに当たっての監査契約等のポイント
3. 会計監査を受けようとしたときの事前準備のポイントと例示
———————————————
といった切り口で整理をされています。

今回は、このうち
「1. IPOまでの標準的スケジュール」
「2. IPOを目指すに当たっての監査契約等のポイント」
について概要をお伝えさせていただきたいと思います。

 

IPOまでの標準的スケジュール

まずIPOまでのスケジュールについて
とくに監査関連にフォーカスしたIPOスケジュール
以下の通り表現されています。

「株式新規上場(IPO)のための事前準備ガイドブック」より引用

 

たとえば、2025年に上場を目指した場合には、
・申請期(N):2025年
・直前期(N-1):2024年
・直前々期(N-2):2023年
・直前々期以前(N-2以前):2022年まで
といった感じの見方になります。

IPOを目指し始める時期は、
どれだけ早期のIPOを目指したとしても、
通常はN-2以前からのスタートとなりますので、
最低3年以上はかかることになります。

 

それでは、上図にある①~⑤の内容について、
概要(ポイント)以下に列挙させていただきたいと思います。

①ショートレビュー及びその後のアドバイザリー契約

ショートレビューとは、監査法人やアドバイザーがIPOに向けての課題抽出を行うものである
・抽出された課題は上場準備において重要なものであり、項目も多岐にわたる
・課題についてはアドバイスを受けながら解決を目指す

②上場準備に必要な内部管理体制

・上場準備の各ステージで要求される内部管理体制は、 会社の規模・業種等により異なる
・上場準備期間の早い段階で監査法人やアドバイザーに相談し、内部管理体制の整備を進めるべき

③会計監査(財務諸表監査)

申請期の直前2期間は監査法人による監査証明が必要となる
・監査法人と金融商品取引法に準ずる監査契約を締結し会計監査を受ける必要がある
・大手や準大手の監査法人だけではなく中小規模の監査法人も、IPO監査を実施している

④内部統制報告制度対応

上場後は内部統制報告書の提出と内部統制監査が必要である
・内部統制報告制度では、財務報告に関連する内部統制の状況を経営者自らが評価する
・さらに内部統制の経営者評価結果について監査法人の監査を受ける
・内部統制が構築され、評価・監査可能となるように内部統制の状況を文書化の準備が必要
・内部統制の文書化資料の一連の準備には相当の時間がかかる
・上場前から内部統制報告制度への対応を計画的に準備しておく必要がある

⑤コンプライアンス体制

・コンプライアンスの状況については、上場審査で主幹事証券会社や証券取引所の審査を受ける
・上場後も、上場会社としてルールをキャッチアップし、遵守していく必要がある
・経営者自ら率先してコンプライアンス体制を整備・運用する企業風土を醸成する必要がある
・役職員教育を充実させるとともに、ルールの遵守状況をチェックしていく必要がある
・上場会社はそのほかにも、事業に関連する法規を当然守らなければならない

 

会計監査を受ける際の確認ポイント

IPOを目指すと決めたら、
遅くとも上場を目指す3年~5年前には、
監査法人の何らかの関与が必要になってきます。

会計監査を初めて受けるときには、
わからないことも多いと思いますので、
いろいろと不安な面もあるかと思いますが、
当ガイドブックでは「会計監査を受ける際の確認ポイント」として、
以下のような点を列挙しています。

「株式新規上場(IPO)のための事前準備ガイドブック」より引用

すぐにイメージがわくもの、わかないもの、
いろいろとあるかと思いますが、
要は、このような単語が普通に飛び交うことになりますので、
経営者としては、それなりの覚悟をもって、
IPOスケジュールに進んでいく必要があるといえます。

ひとまず、気になる単語があれば、
調べたりして見るのも良いかと思います。

 

監査法人やアドバイザーの早期関与のメリット

IPOを目指すにあたっては、
上記の「会計監査を受ける際のポイント」に列挙されているような項目を
1つ1つ整備していく必要がありますが、
このあたりはいろいろな関係者と一緒に進めていくことになります。

その際のメインになる外部機関としては、
・監査法人
・証券会社
の2つになると思います。

監査法人、証券会社との契約は、
IPOを目指す際には必須になります。

 

ただ、悩むところとしては、
いつの時点から監査法人や証券会社と契約をしていけばよいのか、
といった点になるかと思います。

 

その点で、当ガイドブックでは、
監査法人(証券会社も同様だと思いますが)や
関連するアドバイザーとは早期に契約をして、
進めていくことをお勧めしています。

日本会計士協会が作成したガイドブックなので、
「早めに準備を進めるために監査法人と契約しましょう」
といった宣伝的な要素は当然あるとは思いますが、
客観的な視点で考えても、その通りではあると思います。

IPOのスケジュールと監査法人との契約タイミングは
密接に関係すると思いますので。

「株式新規上場(IPO)のための事前準備ガイドブック」より引用

この点について、
ガイドブックに記載されている内容の要約は、
以下の通りとなります。

①要改善事項の全体像の把握

ショートレビューを受けることで、IPOに向けて改善すべき事項の全体像が見えてくる
・そのため、その後の上場準備作業の計画が立てやすくなる

②内部管理体制の整備の効率化

・上場会社には決算体制や内部管理体制の整備など、一定水準の内部統制の存在が必要
・直前々期の期首までにこれらをある程度整備しておく必要がある
整備には時間のかかるものもあるため、早めに監査法人やアドバイザーの指導を受けた方が効率的

③改善作業の効率化

・IPOに向けた改善に当たっては、優先順位、改善の程度感、改善方法等、判断に迷う場面も多い
・判断を誤ると回り道をすることになってしまう
経験豊富な監査法人やアドバイザーを活用すれば、改善作業の効率化が図れる

 

監査法人との監査契約の締結

最後に、監査法人と契約締結するにあたっての留意点
について記載がありましたので、
概要を以下の通りまとめてみました。

 

ちなみに、ここ数年は、
監査法人側がIPO監査を引き受ける余力が無く、
いわゆる「IPO監査難民」が問題になり続けています。

監査法人側にもいろいろな事情があると思いますので、
監査法人と交渉をするにあたっては、
以下の要点を意識しながら、コミュニケーションを図られると良いかと思います。

 

①ビジネスモデルと会社規模を踏まえた監査法人との監査契約

海外展開や子会社の有無、事業内容が複雑さによって監査環境もそれぞれ異なる
・大手や準大手の監査法人だけでなく中小規模の監査法人も上場準備会社の監査を実施している
・ビジネスモデルや会社規模を踏まえ、監査法人の選択を検討すべき
・海外子会社等の拠点については現地の監査法人の選任が必要となるケースもある
・早めに監査法人と協議を行う必要がある

②会計監査を受けるに当たって

・上場準備期間の監査や証券会社の引受審査の位置づけは以下の通り
  「単なる数字や形式のチェックではなく、経営者の資質、
 企業カルチャーも含めた企業経営の健全性、事業内容等を独立第三者の立場で検証し、
 将来にわたって投資家の期待に応えられる企業となるための
 土台を固める重要なプロセスであるとの理解の共有が重要である」

・上場準備会社が監査を依頼しても、監査法人側が引受けできるかどうかは、そのときの状況による
・監査法人とコミュニケーションを図り、上場スケジュールを考慮して余裕をもって依頼する必要あり
・契約が締結されない場合でも、監査法人からその理由の説明を受け、課題を確認することが重要
・状況によって別の監査法人との契約も含 た対応策の検討が必要

③遡及監査について

IPOの重要な課題を整理しないまま監査契約を締結することは困難
・ただし、一定の条件が整えば遡及監査が可能な場合もあるので、監査法人に要相談
  <一定の条件の例>
 ・IPOの重要な課題が会計監査の導入前に解決されている
 ・在庫の実地棚卸だけは監査法人が立会を実施済みである
 ・上場会社の子会社等で従前から監査法人が会計監査対象としていたケー ス

④アドバイザリー契約から監査契約への切替え

・監査法人とのIPOアドバイザリー契約を監査契約に切り替えたい場合は、早めに監査法人に要相談
・監査契約へ切替可能かは、上場準備の状況やIPOアドバイザリー契約の内容にもよる
・監査契約を締結するに当たって、監査法人には独立性が求められている
・アドバイザリー業務の提供には一定の制限が課されている
・そのため、監査契約と同時並行でアドバイスが受けられない場合がある
会計監査を依頼する予定の監査法人に早めに確認し、別途アドバイザーを登用することも要検討

 

最後に

ということで、今回はIPO関連の情報として、
日本公認会計士協会が公表している
「株式新規上場(IPO)のための事前準備ガイドブック」のなかの
「1. IPOまでの標準的スケジュール」
「2. IPOを目指すに当たっての監査契約等のポイント」
という点について、ご紹介をさせていただきました。

次回は後編として、当ガイドブックに記載のある
「3. 会計監査を受けようとしたときの事前準備のポイントと例示」
という点についてご紹介できればと思っています。

 

参考:IPOのロードマップ

【STEP 1】 事業計画・コーポレートストーリーの作成
【STEP 2】 資本政策・資金調達計画の立案開始
【STEP 3】 税理士依存からの脱却
【STEP 4】 税務会計から上場会計へ
【STEP 5】 管理部門人員の強化(経理・人事)
【STEP 6】 労務管理体制の強化
【STEP 7】 監査法人の選定・ショートレビュー
【STEP 8】 証券会社選定
【STEP 9】 役員構成の整備開始
【STEP10】 関連当事者の整理
【STEP11】 上場PJチーム発足
【STEP12】 規程類の整備開始
【STEP13】 月次決算の早期化
【STEP14】 予算管理体制・セグメント管理体制の構築
【STEP15】 内部統制体制&内部監査体制の構築開始
【STEP16】 会計監査の本格対応
【STEP17】 証券会社審査等の対応
【STEP18】 上場のための開示書類作成
【STEP19】 取引上の上場審査
【STEP20】 ロードショー&株価決定

 

 

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