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STEP7【IPO】監査法人の選定・ショートレビュー

  • 2020.8.18

今回の内容

今回は、株式場(IPO)に向けたロードマップの【STEP7】となります。
経営者として「株式上場の進め方」についてのイメージをつかんでいきましょう。

 

 

経営者からよく聞かれる質問

今回は、
IPOに向けて早い段階で契約が必要になる、
監査法人についてのテーマでお伝えしたいと思います。

会計監査に接した経験があれば、
イメージがわく世界なのですが、
ベンチャー経営者は監査法人との接点が
意外と少ないのではないでしょうか?

 

そこで、よく聞かれる質問として、

—————————————
・監査法人といつ契約すべきかわからない
・どこの監査法人にすべきかわからない
・監査を引き受けてもらえない(いわゆる監査難民)
・監査報酬の相場観がわからない
—————————————

といったような点について、
今回はお伝えしていければと思っております。

 

 

監査法人との監査契約とは?

IPOを目指す場合には、
必ず監査法人との監査契約が必要です。

上場前の2期間について、
自社の決算書やその他資料について、
監査法人から「適正です」という
お墨付きをもらう必要があるためです。
(当然、上場後は継続的に監査が必要になります)

 

そのため、
IPOをある程度明確に意識したら、
早期に監査契約をして整備を進めていく必要あります。
上場したい時期の3年前までには、
監査契約を締結している必要があるでしょう。

 

なお、監査契約を締結する際には、
短期調査であるショートレビューというのを
お金を支払って受ける必要があります。

ショートレビューをざっくり表現すると、
税務調査の監査版のようにイメージしていただければ、
少しはイメージがわくかもしれません。

このショートレビューを受けた後に、
正式に監査契約を締結するかどうかの決定をすることになります。

当然、ショートレビューの結果、
監査法人側から契約は難しいという話もあるかもしれませんが、
まずは、IPOに向けたスタート地点として、
ショートレビューで現状と今後について、
フィードバックをもらうことになります。

 

ただ、ショートレビューを受けるにしても
「どこの監査法人がよいですか?」
という質問も比較的多いので、
今回は、まず監査法人の規模による違いについて、
簡単にご説明をさせていただきたいと思います。

 

 

大手監査法人の特徴

大手監査法人とは、
一般的には以下の監査法人を指すことが多い気がします。
・トーマツ
・あずさ
・新日本
・あらた
・太陽(←規模的に大手扱いにします)

 

そのうえで、
まず、1つ知っておいていただきたいのですが、
——————————————-
大手監査法人だからといって、
中堅監査法人と比べて、
会計士1人1人の質が高いということはない
——————————————-
という点です。

 

私の個人の感覚では、大手監査法人の方が、
会計士1人1人の能力は相対的に低くなる気がします。

監査法人に入った時点では
能力が高い人もいるかもしれませんが、
大手監査法人に入ったことで、
環境的に能力が伸びていかない、といった印象が強いです。
(あくまで個人的な見解です)

 

一方で、大手監査法人の特徴としては、
組織的な監査手法は確立できているので、
レベル感がまちまちの会計士を統制することで、
監査法人全体としての監査の質を維持しているといった印象です。

 

ここで注意が必要なのは、
「監査の質」
というのは、あくまで監査法人側の視点での話です。

クライアント側で不正等があった場合に、
監査法人が訴えられたりしても負けないように
きちんと主張できるような体制のことを、
「監査の質」と表現させていただいています。

たとえば、
監査の手続きや手法をマニュアル化して、
どの会計士が監査をしても同じ監査結果になるようにする、
といった手法で、これを実現することで、
監査法人全体を訴訟リスクから守るという感じのイメージでしょうか。

 

そのため、
ここで使われる「監査の質」という表現は、
クライアントから見ると、
基本的には興味のない視点だと思いますし、
クライアント側へのサービス提供の質が高くなることを
意味するものではありません。

誤解を恐れず言うと、
———————————
大手監査法人の監査は、
監査法人側のリスクを最小化するための
独自のマニュアルに従った監査で、
クライアント側からすると面倒になることが多い
———————————
といった点があります。

 

昔は、会計士1人1人が、
プライドと責任をもってクライアントと向き合って、
1つ1つのことを判断していく中で、
信頼関係を築いていました。

そのなかでは、
クライアントにとっても有益な形の
「監査の質」というものが存在したと思います。
会計士ごとに力量が違うのは当然なのですが、
その違いが監査現場でそのまま出ていました。

 

ただ最近は、訴訟対策というのが全面に出て、
会計士1人1人の個性・力量によって
監査のやり方・結果に差が出ないような監査になっています。

監査法人としては、
そちらの方がリスク回避の意味で良いのだと思いますし、
これをもって「監査の質」を維持する流れになっていますが、
そのことが、クライアントにとって良いことかどうかは、
全く別次元の話になります。

 

また、監査報酬という意味では、
やはり大手監査法人の方が高くなりがちです。

監査対応も意味不明な質問が多く、
面倒な手続き対応が増えるうえに、
監査コストも高くなるという意味で、
この点、大手監査法人を選ぶメリットはあまりない気がします。

 

ただ一方で、
大手監査法人のメリットがあるとすると、
以下の2点かと思います。

—————————————
・社会的な信頼されやすい傾向にある
・海外子会社が多い場合には、
 大手監査法人の方がノウハウがある
—————————————

 

大手監査法人に準じる規模の中堅監査法人であれば、
社会的な信頼度はそれほど変わらないと思いますが、
小規模監査法人になると社会的な信頼度が
低くなってしまうのは事実としてあります。

そのあたりを気にされる場合には、
中堅以上の監査法人にした方がよいでしょう。

 

また、大規模会社で、
海外子会社が多く存在するような会社については、
海外の法律や税務の問題も出てくるので、
そのあたりは大手監査法人の方がノウハウがありますので、
現実的に大手監査法人から選択することになると思います。

 

一方で、IPO監査を前提とすると、
そのようなグローバルに展開している規模感の会社は
ほとんど無いと思いますので、
大手監査法人にするメリットはあまりない気がします。
(逆に大手監査法人によるデメリットの方が大きい気がしています)

 

 

中堅監査法人の特徴

中堅監査法人の特徴ですが、
———————————–
・大手監査法人より監査報酬は安め
・大手監査法人よりコニュニケーションが図りやすい
・担当する会計士によって監査の質にばらつきが出る
———————————–
といった点があると思います。

 

一般的に中堅監査法人とは、
・三優
・仰星
あたりでしょうか。

 

まず、監査報酬については、
大手監査法人よりは少し安くなると思いますので、
この点は単純にコストメリットはあると思います。

 

また、所属している会計士個人の質としては、
大手監査法人より劣ることは決してないと思います。
どちらかというと、会計士1人1人の能力は、
中堅監査法人の方が大手監査法人より高いかもしれません。

理由としては、
・中堅監査法人には、大手監査法人のマニュアル監査が嫌で退職し、
 自身の能力を発揮できる中堅監査法人に転職した優秀な会計士も多い
・大手監査法人のようにマニュアルが整備されていない分、
 会計士個々人が努力をして成長していることも多い
といった点によります。

 

ただ一方で、
監査法人全体で見たときには、
会計士1人1人の能力を統制できていない場合もあり、
担当する会計士によって監査のやり方や質が異なる、
といった点はあり得ます。

優秀で、かつ、
コニュニケーション能力の高い会計士が
自社の担当になった場合には、とても頼りがいもあり、
かつ、親身になって対応してくれると思います。
(当然、逆の場合もあると思いますが・・・)

大手監査法人の場合、
担当が変わっても、監査の仕方としては、
それほど大きな違いは出ないかもしれませんが、
中堅監査法人の場合には、
担当による差が、大手監査法人よりは出てくるかもしれません。

 

いずれにしても
IPO監査ということであれば、
大手監査法人にこだわることはないと思いますので、
個人的には、中堅監査法人の方の方がお勧めです。

 

ただ、中堅監査法人より
もう少し小規模のレベルの監査法人となると、
少し注意が必要です。

 

中堅監査法人は、
大手監査法人ほどは組織的な監査はできていなくても、
やはり担当者によって質が異ならないように、
最低限の仕組みを整えています。

一方で、小規模監査法人の場合には、
本当に担当者の経験・スキルに頼っていて、
組織的な監査環境は整備できていないことが多いです。

 

一般論として、監査法人の規模が小さくなるほど
優秀な会計士が新規に設立していることも多く、
実は、会計士個人の能力としては高くなる傾向はあると思いますが、
やはり、社会的信頼という点や、
監査法人自体の安定性という意味で注意が必要です。

小規模監査法人は、
担当が退職したり、別法人を作ったり、
組織として不安定感がありますし、
本当に担当会計士の状況に左右されがちです。

 

このあたりを意識しながら、
監査法人選びは総合的に検討する必要があります。

 

 

最近の傾向

大手監査法人・中堅監査法人・小規模監査法人の
ざっくりとした違いをお伝えしてきましたが、
ここ数年、多くのIPO準備会社が直面する問題があります。

それは、
「監査難民」
というテーマです。

つまり、
——————————
IPOに向けて、
監査を引き受けてもらいたいけど、
引き受けてもらえない
——————————
という問題です。

 

とくに大手監査法人が、
IPO準備会社の監査の引き受けを凍結したり
積極的でなくなったりした背景もあり、
監査難民の問題が深刻化しました。

必然的に、
大手監査法人がだめなら中堅監査法人へ、
中堅監査法人がだめなら小規模監査法人へ、
という流れが起きました。

結果として、業界全体として、
監査の引受手不足という状況が起こっています。

 

私も、IPO準備を進めたいという会社から、
監査法人の紹介を依頼されることもちょこちょこあり、
何度か紹介まではしたのですが、
最近は、結構苦労しています。

少し前までは、
個人的なコネやつながりで、
監査法人になんとか話を聞いてもらえていましたが、
最近では、案件を紹介した時点、監査法人からは、
「ありがたい話だけど、今は引受けが難しいです」
「3月決算会社の時点で引き受けは難しいから、
 決算期変更してもらうことは前提で話だけは聞けるかも」
といった感じの反応になってきました。

 

そのため、上記で記載したような、
「大手監査法人がよいのか、中堅監査法人がよいのか」
といったような選択を、クライアント側ができる状況でもなくなっている、
というのが現状ではあります。

 

タイムリーな記事ではありますが、
2020年8月15日の日経新聞でも、
「4大監査法人、IPO業務回避が顕著に「監査難民」解消見えず」
というタイトルで、
同様な内容の記事が紹介されていました。

 

上記日経新聞の記事から
内容を少し抜粋・整理をさせていただきますと、

———————————————-
・IPO監査はかつてEY新日本監査法人、監査法人トーマツ、
 あずさ監査法人、PwCあらた監査法人のビッグ4が大半を担っていた。
 ところが、会計士の人手不足やIPO監査の収益性の低さから
 近年は大手のシェアが下がっている。
・2019年は78%と前の年から9ポイント下がり、
 大手法人の再編が一巡した10年以降の最低を更新していた。
 2020年はこれをさらに下回る可能性が大きくなってきた。
今のところ大手が手がけなくなった分は準大手が受け皿となっている
 金融庁によると、IPOに向けた監査の新規契約数では
 太陽監査法人など準大手5法人がすでに大手を上回った。
 2019年の新規契約は大手が前年比17%減の191件だったのに対し、
 準大手は同24%増の210件だった。
———————————————-

といった感じです。

 

このような状況だからといって、
妥協して監査法人選定をするのは
あまり望ましくはないと思いますが、
監査報酬等のコスト面は妥協はせざるを得ないかもしれません。

ちなみに気になる監査報酬の相場ですが、
規模や会社の状況によりますが、
IPO準備会社の場合、ざっくり、
600万円~1,000万円/年間くらいのイメージかと思います。

 

また、相手の立場・気持ちを
考えることも重要かと思いますので、
参考までに監査法人側の気持ちをお伝えしますと、

——————————————
・監査報酬が、作業量に見合うかどうか
・成長性のある会社かどうか
・経営者の姿勢は真面目かどうか
・監査に協力してくれる姿勢があるかどうか
・経理周りの業務が整備されているかどうか(手間がかからないかどうか)
——————————————

といった感じでしょうか。

 

このような先方の気持ちも意識しながら、
交渉をしていくことは必要かと思います。

 

 

いつもで監査契約できる体制の整備をしておく

ということで、今回は、
「【STEP7】 監査法人の選定・ショートレビュー」
というテーマでお伝えさせていただきました。

 

IPO監査の環境は、
いろいろな意味で結構大変だというのが、
現状と言えるでしょう。

そのようななかで、
監査契約をしたいと思ったときに、
きちんと希望した監査法人と監査契約できるように、
事前に会社内部の整備をしておくことは、
重要かと思っています。

 

そのため、とくに会計や経理周りの整備は後回しにせず、
監査法人に依頼する前の段階であっても、
整備を開始していくことをお勧めいたします。

それが結果的に、
IPOへの近道になると思いますので。

 

 

参考:IPOのロードマップ

【STEP 1】 事業計画・コーポレートストーリーの作成
【STEP 2】 資本政策・資金調達計画の立案開始
【STEP 3】 税理士依存からの脱却
【STEP 4】 税務会計から上場会計へ
【STEP 5】 管理部門人員の強化(経理・人事)
【STEP 6】 労務管理体制の強化
【STEP 7】 監査法人の選定・ショートレビュー
【STEP 8】 証券会社選定
【STEP 9】 役員構成の整備開始
【STEP10】 関連当事者の整理
【STEP11】 上場PJチーム発足
【STEP12】 規程類の整備開始
【STEP13】 月次決算の早期化
【STEP14】 予算管理体制・セグメント管理体制の構築
【STEP15】 内部統制体制&内部監査体制の構築開始
【STEP16】 会計監査の本格対応
【STEP17】 証券会社審査等の対応
【STEP18】 上場のための開示書類作成
【STEP19】 取引上の上場審査
【STEP20】 ロードショー&株価決定

 

 

 

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