記事一覧

Vol.131【IPO事前準備】棚卸資産管理

  • 2021.4.25

株式新規上場(IPO)のための事前準備ガイドブック

今回も
日本公認会計士協会から公表されている
「株式新規上場(IPO)のための事前準備ガイドブック」
の概要について、ご紹介をさせていただきたいと思います。

そのなかでピックアップされている項目として
———————————————-
会計データ・裏付け証憑の整理
発生主義会計及び収益認識会計基準への対応
棚卸資産管理
原価計算体制
資産・負債の管理
連結決算
関連当事者取引の把握・整理
⑧内部管理体制の構築
⑨労務管理
⑩情報システムの内部統制
⑪不正への対応
⑫会計上の見積り
⑬会計基準の選択
———————————————-
が挙げられています。

このうち、今回は
「③棚卸資産管理」
についてご紹介をしたいと思います。

 

重要性が高い棚卸資産

最近は、在庫を持たないビジネスも多くなりました。

そのため、すべての業種で同レベルで
重要性が高いというわけではありませんが、
一般的には棚卸資産は会計監査上は大きなトピックになります。

 

また、棚卸資産は、
会計監査のためだけではなく、
経営管理上も、当然重要なものです。

棚卸資産を顧客へ提供することで、
企業は売上をあげ、資金回収をするものですので。

 

とはいえ、棚卸資産の管理が
しっかりできている会社ばかりではありませんので、
IPOに向けて早めに整備をする必要がある項目として、
ピックアップをされています。

棚卸資産管理について、
小売業のように有形のモノを販売する会社や
メーカーのように製品を製造している場合には、
帳簿上で在庫がきちんと管理されているかどうかは、
最重要ポイントになります。

具体的には、

・日々の受払管理ができているかどうか
・定期的に棚卸をして実物管理ができているかどうか

 

といった両側面が重要になります。

 

 

在庫の受払管理

商品を仕入れたり、販売したりした都度、
在庫が増えたり、減ったりするわけですが、
これを帳簿としてきちんと受け払い管理をしていないと、
今時点でどのような在庫状態になっているかがわからなかったり、
会計数値もおかしな数値になったりします。

このような状態は、
経営管理上も当然問題になると思いますが、
監査法人の監査でも当然指摘をされます。

「株式新規上場(IPO)のための事前準備ガイドブック」より引用

 

たまに、日々はとくに在庫管理をしていなくて、
決算のときだけ、ざっと在庫を数えて決算書を作成している
といった運用も見聞きします。

会社規模が小さなうちは、
それでも支障はないかもしれませんが、
IPOを目指すとなると、真っ先に改善を要求されます。

日々の受払管理をしていないと、
仮に、誰かが在庫を盗んだとしてもすぐに気づけませんし、
そのような状況だと、そもそも、
決算書自体が信用されないことになりますので。

 

また、最近は、このような在庫管理を、
手書きやExcelで実施するだけでなく、
何らかの管理システムで実施することが増えていると思います。

そう考えると、
在庫管理システムの登録や使用方法が正しいかどうか、
といったあたりも、会計監査ではチェックポイントになります。

 

実地棚卸

棚卸資産について
日々の在庫管理(受払管理)は、
ベースとしてとても重要なのですが、
それだけでは不十分です。

帳簿自体が何らかのミスで間違っていたりした場合に、
気づける仕組みが無いと、
間違った在庫数・在庫金額をもとに、
経営判断をしたり、決算書ができあがってしまいます。

 

このようなリスクをヘッジするために、
定期的に在庫の実物をカウントして、
帳簿の動きや残高が正しいかどうかの確認をすることが必要で、
それを「実地棚卸」と言います。

最低限、決算日には、
この棚卸しをして残数確認をする必要がありますが、
IPOを目指す場合には、
もう少し頻度を上げて棚卸しをすることを要求されます。

やはり、1年に1回だと、
帳簿と実数に差異がわかったとしても
原因追及が難しかったり、
何らかの対策を打つにしても後手に回ってしまいますので。

「株式新規上場(IPO)のための事前準備ガイドブック」より引用

 

なお、棚卸資産の実地棚卸については、
監査法人も一緒に立会をして、
きちんとカウントが実施されているかどうかをチェックされます。

さらに、カウントの仕方が正しいかどうか、
その運用ルールについても、細かく確認をされます。

一般的には、「実地棚卸要領」といった
棚卸作業用のマニュアルの作成が義務付けられ、
それ通りにきちんと棚卸し作業が実施されているかの
プロセスもチェックをされることになります。

 

このように、
棚卸資産管理は経営上も重要な論点ですが、
監査法人にとっても最重要チェックポイントですので、
とくに在庫の多い業種については、
早期の整備が求められます。

 

在庫の評価

なお、棚卸資産については、
数が正しいかどうかという点は当然重要なのですが、
金額が正しいかどうかという点も同様に重要視されます。

 

たとえば、
帳簿上は10個あるとされる商品について、
棚卸カウントした際に、きちんと10個あった場合において、
数が正しいこと自体は良いのですが、
その10個について、きちんと価値のあるものかどうか、
という点について検証がされます。

仮に10個の在庫があったとしても、
そのうち3個しか今後販売できる見込みがない場合には、
残りの7個分は実質的に価値がないとして、
在庫金額を評価減すること(=損失計上)を求められます。

また、10個の在庫があって、
今後10個販売できる見込みがあったとしても、
原価割れするくらいの値引をしないと販売できないという状況であれば、
このような場合にも、赤字販売による損失相当額について、
在庫金額から評価減すること(=損失計上)を求められます。

 

このように、在庫管理という点では、
・日々の受払管理ができているか
・定期的に実地棚卸をして実物確認ができているか
・残っている在庫は適正に販売できるのか
といった論点が詰まっており、
この点で、とても重要なテーマとなっています。

 

ちなみに、小売業のように
目に見える有形の商品を扱っている場合の在庫というと
イメージがしやすいと思いますが、
ソフトウェア開発といった目に見えづらい業種においても
この在庫という概念はでてきます。

たとえば、システム受託開発をビジネスにしている場合に、
その開発期間が長期にわたる場合に、
開発費用をきちんと計算をして、仕掛中のプロジェクトについては、
仕掛品(仕掛中の開発コスト)として在庫計上する必要があります。

このあたりは、目に見えづらいビジネスの方が、
在庫管理という点では、きちんと整備ができていないことが多く、
IPOを目指す場合には、重要テーマになってくると思います。

 

次回は

ということで今回は、
「③棚卸資産管理」
というテーマでお伝えをいたしました。

そして次回は、
今回の棚卸資産管理とも密接に関わるテーマとして
④原価計算体制
についてご紹介できればと思います。

 

 

関連記事

最近の投稿