記事一覧

Vol.82【IPO事例】ウェルスナビ株式会社

  • 2021.1.1

新規IPO

2020年12月22日にウェルスナビ株式会社(証券、商品先物取引業)
東京証券取引所マザーズに上場いたしました。

今回は同社から公表されている資料にもとづき、
IPOの状況を確認してみたいと思います。

 

上場時資料

■成長可能性に関する説明資料

https://ssl4.eir-parts.net/doc/7342/tdnet/1914736/00.pdf

■東京証券取引所マザーズへの上場に伴う当社決算情報等のお知らせ

https://ssl4.eir-parts.net/doc/7342/tdnet/1914735/00.pdf

■新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)

https://www.jpx.co.jp/listing/stocks/new/nlsgeu0000053yx3-att/12WealthNavi-1s.pdf

 

成長可能性に関する説明資料

■会社概要

まず会社概要について以下の資料をもとに説明をしています。

「Mission」
「経営陣紹介」
「積み上げ型の収益モデルを持つ国内No.1ロボアドバイザー」

ここまでは比較的シンプルに説明をして終えています。

 

■カンパニー・ハイライト

資料の作りとして、
カンパニー・ハイライトという目次的なページに
以下の5つの項目を掲げ、
この5つの内容をそれぞれ説明していく作りになっています。

①大きな社会課題の解決を目指す
②手数料1%で高品質なサービスを提供
③プロダクト開発力を活かし、高い市場シェア
④積み上げ型ビジネスとしての安定性と、コスト構造
⑤将来像:個人金融サービスのプラットフォームを目指す

 

■①大きな社会課題の解決を目指す

まず1つ目の項目ついてですが、
同社サービスが解決していくべき社会課題について、
以下のストーリーで説明をしています。

———————————————————–
終身雇用の終焉と「人生100年時代」の到来により、
「働く世代の資産形成」という新たなニーズが生まれつつある
  ↓
かつては働く世代の資産運用のニーズは乏しかったが、
社会構造の変化により、働きながらの資産運用が大切な時代に
  ↓
「資産運用の方法がわからず、相談相手もいない」ことから、
資産運用のニーズはあっても実行できない人が多い
  ↓
その結果、日本の個人金融資産の52.8%が預貯金に集中
  ↓
オンラインで完結するWealthNaviにより、
忙しく働く世代が豊かな老後に向けた資産形成を行える
  ↓
働く世代の金融資産は650兆円。潜在市場は大きい
  ↓
働く世代が老後に向けた資産形成を加速させると、
ロボアドバイザーの潜在市場は今後10年で16~23兆円
———————————————————–

社会課題の解決を目指すなかで、
同社サービスの潜在市場を、今後10年で、
16~23兆円と見積もっているところまで、
ストーリーをつなげています。

 

■②手数料1%で高品質なサービスを提供

次に同社サービスが提供できる機能や価値と
それを利用することによる料金について説明をしています。
具体的には以下のようなストーリーで説明を進めています。

————————————————-
ポートフォリオの構築からリバランス、税金の最適化まで
資産運用の全プロセスを自動化
  ↓
第三者のETFを組み合わせ、グローバルな分散投資を実現
  ↓
長期・積立・分散により、金融危機を乗り越え資産を増やす
  ↓
シンプルで分かりやすい手数料:預かり資産の1%(年率)
  ↓
20~50代が9割を超え、投資未経験が約3割を占める
————————————————-

 

この項目の最後に、
4名のお客様の声を掲載する形で、
同社サービスの利用実績を補足している点は、
とても良い流れだと思います。

4名の利用者について、
・課題
・解決策
・効果、影響
・お客様の声
という切り口でまとめたうえで、
利用状況を説明されています。

 

■③プロダクト開発力を活かし、高い市場シェア

そして次に、高い市場シェアを実現できていることの説明と、
その背景や、コロナショック時のサービス利用状況等について
説明を加えることで事業の安定性・成長性を示しています。

具体的には、以下のストーリーで説明をされています。

——————————————-
ダイレクト・提携パートナー事業の両方が高い成長を牽引
  ↓
提携パートナー事業は、
ダイレクト事業と基本的に同じサービスを提供しており、
手数料をレベニューシェア
  ↓
預かり資産、運用者数ともに国内ロボアドバイザーNo.1
  ↓
高い成長シェア:
過去1年間の国内ロボアドバイザー市場全体の
預かり資産の成長の68%を占める
  ↓
プロダクト開発力を活かし、新機能をリリースし続けている
  ↓
「長期・積立・分散」を続けられるよう、お客様をサポート
  ↓
コロナ・ショックにより相場が急落した局面でも、
95%のお客様がWealthNaviでの資産運用を継続
  ↓
68%のお客様が、同期間に追加入金
  ↓
運用者数は、コロナ・ショックの中でも一貫して増加傾向
  ↓
お客様より高い評価を得ており、利用予定年数は長期
  ↓
「長期・積立・分散」による資産運用を通じて、
一人でも多くの働く世代の「老後2,000万円問題」の解決を目指す
——————————————-

 

このパートでは、
国内ロボアドバイザー市場のなかで、
同社が圧倒的なNo.1であることを
ビジュアル的に説明をしています。

また、事業提携先の具体的な金融機関名を明示しながら、
同社サービスの競争優位性も説明している印象です。

 

■④積み上げ型ビジネスとしての安定性と、コスト構造

そして次に、気になる同社の損益状況について、
具体的に説明をしているパートになります。

同社の損益は、現時点で赤字でありますが、
資金調達・投資フェーズにある現状におけるコスト構造と、
今後の投資回収状況について説明をしています。

具体的には、以下の資料・ストーリーでの説明となります。

————————————–
営業収益は着実に成長
  ↓
コストの回収が順調に進んでいる
  ↓
広告宣伝費以外の費用を回収し、次のフェーズへ
  ↓
財務諸表
————————————–

項目として
「広告宣伝費以外の費用」
という文言があるように、
今は広告宣伝費がコストの中でも高い割合であり、
かつ戦略的な投資コストであると位置づけているものと思います。

市場シェアを築くまでは、
赤字になっても広告宣伝費をかける方が
中長期的にはプラスであるということだと思います。

今後の投資回収ステージに期待したいところです。

 

■⑤将来像:個人金融サービスのプラットフォームを目指す

そして最後に、目指したい将来像として、
「個人向け金融プラットフォームを目指す」
という資料で締めくくっています。

 

財務数値の特徴

まずはB/Sについては以下のような感じです。

 

同社は「証券、商品先物取引業」と、
特徴的な業態であることから、
他社と比べるのは難しい状況ですが、
やはり気になるのは純資産といったところでしょうか。

上場前にかなりの資金調達を繰り返し、資本は厚めであるため、
その点で、現時点で問題はないかと思いますが、
まだまだ投資フェーズであるようですので、
このあたりの健全性を保ちながら、
どれだけ早く成長拡大していけるかがポイントでしょう。

 

次にP/Lの方はどうでしょうか。

 

P/Lの方も、
まだ営業赤字ですし、投資フェーズということもあり、
評価が難しいところではありますが、
注目すべきは、やはり売上の成長率といったところでしょうか。

売上が拡大していき、
市場シェアを確立できたときには、コスト構造も変わり、
逆に安定的に利益を出していけるビジネスモデルだと思いますので。

 

資本政策

■特別利害関係者等の株式等の移動状況

<有価証券上場規程施行規則第253条の規定>
東京証券取引所マザーズへの上場にあたり、
特別利害関係者等が、新規上場申請日の直前事業年度の末日から起算して
2年前の日(2018年1月1日)から上場日の前日までの期間において、
発行する株式又は新株予約権の譲受け又は譲渡を行っている場合には、
「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」に記載することとされています。

2020年8月
VCからの優先株式取得⇒対価として普通株式交付
・2020年8月7日開催の取締役会において、
 A1種優先株式、A2種優先株式、B種優先株式、
 C種優先株 式、D種優先株式、E種優先株式のすべてにつき、
 定款に定める取得条項に基づき取得することを決議
・2020年8月24日付で自己株式として取得し、
 対価として各優先株式1株につきそれぞれ普通株式1株を交付
・A1種優先株式、A2種優先株式、B種優先株式、
 C種優先株式、D種優先株式及び E種優先株式は普通株式と比較して
 残余財産の分配等の点で権利内容が異なっており、それぞれ発行価格は、
 証券取引所に上場する場合に種類株式1株につき普通株式1株を交付することを前提として、
 その権利内容を踏まえて類似会社比準方式により算出した価格を基礎として算定
・取得したA1種優先株式、A2種優先株式、B種優先株式、C種優先株式、
 D種優先株式及びE種優先株式は、会社法第178条に基づきすべて消却

 

概要の一部としては以下のような感じです。

 

■第三者割当等の概況(株式分割前ベースで記載)

こちらについても情報量が多いため、
以下の通りⅠの部から転載をさせていただきます。

まずは優先株式についてです。
あらゆるVCに対して、
かなりの種類株式交付がされています。

なお、株式の発行価額及び行使に際して払込をなすべき金額は、
類似会社比準方式により算出した価格を総合的に勘案して決定しているようです。

 

また、上記以外の動きとして、
・新株予約権の交付:7回
・新株予約権付社債の発行:1回
があり、かなりの多岐にわたっています。

事業拡大には、
それなりの資金調達が必要なことが
読み取れます。

 

■株主の状況

・第1位:代表者個人 12,164,034株(24.84%)
・第2位:AT-I投資事業有限責任組合  4,496,400株(9.18%)
・第3位:SBIホールディングス株式会社 3,162,540株(6.46%)

 

■新株予約権の状況

・6,486,606株
・13.25%

 

■資産管理会社

・なし

 

■総括

かなりの数のVCが入っており、資本政策も複雑になっている
ストックオプションの付与も13%を超えており、かなり高い割合になっている。

※詳細は、以下の「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」参照
 https://www.jpx.co.jp/listing/stocks/new/nlsgeu0000053yx3-att/12WealthNavi-1s.pdf

 

監査報酬

上場直前の監査報酬の状況は以下のような感じです。

直前期の監査報酬(非監査業務を除く)で1,000万円となっており、
他社と比べて少し割安といった感じでしょうか。

 

新規上場株価情報

●事業内容
・資産運用を全自動化したロボアドバイザーの開発・提供
●業種別分類
・証券、商品先物取引業
●株主名簿管理人
・三菱UFJ信託銀行㈱
●監査人
・有限責任 あずさ監査法人
●幹事取引参加者
・㈱SBI証券
●発行済株式総数
・42,467,649 株(2020 年 11 月 18 日現在)
●上場時発行済株式総数
・44,967,649 株
(注1)公募分を含む
(注2)新株予約権の権利行使により増加する可能性がある
●公募・売出しの別
・公募:2,500,000 株
・売出し(引受人の買取引受による売出し)13,094,300 株
・売出し(オーバーアロットメントによる売出し)1,559,400 株
●売出株放出元
・AT-I 投資事業有限責任組合
・Infinity e.ventures Asia III,L.P.
・グローバル・ブレイン 6 号投資事業有限責任組合
・FinTech ビジネスイノベーション投資事業有限責任組
・㈱SMBC 信託銀行(特定運用金外信託口 契約番号 12100440)
・DBJ キャピタル投資事業有限責任組合
・みずほ成長支援投資事業有限責任組合
・SMBCベンチャーキャピタル2号投資事業有限責任組合
・三菱UFJキャピタル5号投資事業有限責任組合
・SBIベンチャー投資促進税制投資事業有限責任組合
・SMBCベンチャーキャピタル4号投資事業有限責任組合
・インキュベイトファンド3号投資事業有限責任組合
・SBIベンチャー企業成長支援3号投資事業有限責任組合
・SBIベンチャー企業成長支援4号投資事業有限責任組合
・オナー・エルザン
・SBIベンチャー企業成長支援2号投資事業有限責任組合
・みずほ成長支援第2号投資事業有限責任組合
・SBIベンチャー企業成長支援投資事業有限責任組合
・代表者個人
・取締役個人
●公募・売出価格
・1,150円
●初値
・1,725円 (公募価格比+575円 +50.0%)

 

 

関連記事

最近の投稿