目次
新規IPO
2020年12月21日に株式会社いつも(小売業)が
東京証券取引所マザーズに上場いたしました。
今回は同社から公表されている資料にもとづき、
IPOの状況を確認してみたいと思います。
上場時資料
■成長可能性に関する説明資料
■東京証券取引所マザーズへの上場に伴う当社決算情報等のお知らせ
■新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)
https://www.jpx.co.jp/listing/stocks/new/nlsgeu0000053lmy-att/12itsumoi-1s.pdf
成長可能性に関する説明資料
■会社概要
まずは会社概要についてです。
具体的には以下の資料を用いて、
基礎情報から事業概要まで幅広く説明をしています。
「会社概要」
「EC事業の総合支援 – いつもの提供する支援」
「EC事業の総合支援 – 当社の提供するサービス」
「EC事業の総合支援 – いつもの提供するサービス① ECマーケティングサービス」
「EC事業の総合支援 – いつもの提供するサービス② ECマーケットプレイスサービス」
「これまでの事業展開」
「売上高・経常利益の成長」
まず経営メンバーの経歴を確認してみましたが、
船井総研出身者で設立された会社だということがわかります。
そして、事業としては、
「EC事業の総合支援」
というフレーズを掲げて説明をされていますので、
幅広くEC事業を支援する事業だということがわかります。
基本的は、
ECバリューチェーンの全てを支援できる体制があり、
顧客の状況に応じて、部分的な支援から全体的な支援まで
幅広く対応をしていることがわかります。
資料を確認すると、主に
①ECマーケティングサービス
②ECマーケットプレイスサービス
の2つが主要サービスのようです。
「①ECマーケティングサービス」の方は、
顧客の個別ニーズに合わせたEC事業支援を提供しており、
安定的な売上高と高い売上総利益率を有するサービスとのことです。
利益率は67.4%と説明されており、確かに高利益率と言えます。
一方で、「②ECマーケットプレイスサービス」の方は、
メーカー直販(D2C)支援を提供しており、
高い売上高を占め、ブランド公式ECサイトを運営することで、
メーカーと強い関係性を有するサービスとのことです。
売上高の構成比として82.6%とのことで、確かに売上高構成割合は高いです。
同社の事業展開としては、
最初は「①ECマーケティングサービス」を中心に展開していき、
徐々に「②ECマーケットプレイスサービス」のサービスも拡充をしていった、
という流れのようで、それとともに売上高が急拡大している背景がありそうです。
■市場環境とメーカーEC課題
次に市場分析と競合分析のパートになります。
3C分析でいうこところの
「Customer」
「Competitor」
の部分といえるでしょう。
具体的には、
「早期のECシェア拡大対応を求められているメーカー」
「ECの成長を牽引するECプラットフォーム市場」
「EC市場の変化へのメーカーの対応状況」
「メーカーのニーズに対するサービス提供会社の不足」
といった資料で説明をされています。
まず市場環境としては、
メーカー企業はEC事業への本格参入を求めており、
早期にECシェアを拡大できるサービスに対するニーズが
高まっていることを説明するなかで、
同社サービスへのニーズが高いことを示しています。
ECプラットフォーム市場が拡大していることも
グラフを使用して説明をする一方で、メーカーの対応は十分ではなく、
今後、メーカーがECプラットフォーム展開を通じた
D2C体制の構築を求めている状況と分析をしています。
このような市場の中で、
メーカーのニーズに対応できるサービス提供会社が
不足していることも説明しており、
この点でも同社へのニーズが高いことを説明しています。
■サービスの特徴
次に、サービスの詳細・特徴の説明になります。
2つのサービスそれぞれについて、3つずつ挙げられています。
まずは「①ECマーケティングサービス」の特徴についてですが、
以下の3つを説明されています。
「一気通貫のサービス提供」
「ECプラットフォームへの豊富な支援実績」
「ECビッグデータシステム」
次に「②ECマーケットプレイスサービス」の特徴についてですが、
以下の3つを説明されています。
「早期に、低リスクで、メーカー直販(D2C)体制を構築」
「売上を上げるための物流サービスとインフラ」
「メーカー共同でブランド公式ECサイト運営」
いずれのサービスにおいても、
同社に依頼をすると、他社と比べてどのようなメリットや強みがあるかや、
なぜそれを同社が実現できるかの理由(競争優位性)について
わかりやすく説明している資料になっています。
■成長戦略
最後に成長戦略になります。
こちらについても、2つのサービスごとに、
その成長戦略を示しています。
まずは「①ECマーケティングサービス」の成長戦略については、
「取引先あたりの平均単価の改善」
「ECビッグデータの拡販」
の2つを掲げています。
次に「②ECマーケットプレイスサービス」の成長戦略については、
「取扱ブランド数やECチャネル数の拡大」
「越境EC事業の拡大」
の2つを掲げています。
全体的な成長ストーリーとしては、
今後のフェーズとして、
・ECビッグデータ
・越境EC
・売上連動の報酬体系サービス
といった点を展開していくなかで成長加速していくという
説明になっています。
最後に、
「主要なリスク及び対応策」
についても、1枚資料を用意して説明する形で、
資料は終わっています。
資料全体を通じて、
とてもわかりやすく、シンプルに整理されており、
非常に良い説明資料だと個人的には感じました。
財務数値の特徴
まずはB/Sについては以下のような感じです。
資産の85%は流動資産となっていますが、
その半分は預金です。
そして、在庫も保有はしている点は特徴的ですが、
総資産15%程度といった感じで、
多すぎず、少なすぎず、といった感じでしょうか。
一方、負債ですが、
借入が12億円くらいあり、預金より多い状況です。
利益体質になってきているので、
それほど気になる水準ではありませんが、
これから投資回収ステージにはいり、負債を減らして、
純資産を増やしていく感じになるかと思います。
次にP/Lの方はどうでしょうか。
粗利率が直近では25%程度ですが、
上記の説明資料にあったように
ECマーケットプレイスサービスの割合が大きくなると、
売上高は拡大すると思いますが、粗利率は低下する傾向と思われます。
原価効率も上げていくことで、どこまで粗利率を維持しながら、
売上拡大をしていけるかがポイントでしょうか。
ただ、営業利益は順調に拡大をしていますので、
今後が楽しみであることは間違いありません。
資本政策
■特別利害関係者等の株式等の移動状況
<有価証券上場規程施行規則第253条の規定>
東京証券取引所マザーズへの上場にあたり、
特別利害関係者等が、新規上場申請日の直前事業年度の末日から起算して
2年前の日(2018年4月1日)から上場日の前日までの期間において、
発行する株式又は新株予約権の譲受け又は譲渡を行っている場合には、
「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」に記載することとされています。
2018年12月
・代表者個人⇒代表者個人の資産管理会社(理由:資産管理会社への譲渡)
・269,968円×120株(割合:約48.03%)
・その後の株式分割(1,000分割、20分割)を考慮すると譲渡価格は13.5円程度
・株価は、純資産方式、類似業種比準方式により算出した価格及び配当還元方式にて
算出した価格を総合的に勘案して、譲渡人と譲受人が協議のうえ決定
・約2年後には上場を果たし、株価(公募価格)は1,540円と115倍近くになっている
2018年12月
・取締役⇒取締役個人の資産管理会社(理由:資産管理会社への譲渡)
・25,000円×60株(割合:約24.02%)
・その後の株式分割(1,000分割、20分割)を考慮すると譲渡価格は1.25円程度
・株価は、純資産方式、類似業種比準方式により算出した価格及び配当還元方式にて
算出した価格を総合的に勘案して、譲渡人と譲受人が協議のうえ決定
・約2年後には上場を果たし、株価(公募価格)は1,540円と1,200倍近くになっている
・同時期に資産管理会社へ株式譲渡した代表者の場合と譲渡株価は異なる
■第三者割当等の概況(株式分割前ベースで記載)
2019年9月
・第1回新株予約権 (ストック・オプション)
・発行数:普通株式 12,260株(株式分割後ベース:245,200株)
・発行価格:805円(株式分割後ベース:40.25円)
※純資産方式及び類似業種比準方式により算出した価格を総合的に勘案決定
・発行方法:2019年9月24日開催の臨時株主総会における付与決議
・割当先:取締役、監査役、執行役員、従業員
・保有期間等確約:割当日から上場日前日または行使日のいずれか早い日まで所有
2019年9月
・第2回新株予約権 (ストック・オプション)
・発行数:普通株式 240株(株式分割後ベース:4,800株)
・発行価格:805円(株式分割後ベース:40.25円)
※純資産方式及び類似業種比準方式により算出した価格を総合的に勘案決定
・発行方法:2019年9月24日開催の臨時株主総会における付与決議
・割当先:業務委託先
・保有期間等確約:割当日から上場日以後6ヶ月間を経過する日まで所有
2020年4月
・第3回新株予約権 (ストック・オプション)
・発行数:普通株式 7,960株(株式分割後ベース:159,200株)
・発行価格:805円(株式分割後ベース:40.25円)
※純資産方式及び類似業種比準方式により算出した価格を総合的に勘案決定
・発行方法:2019年9月24日開催及び2020年4月1日開催の臨時株主総会における付与決議
・割当先:取締役、監査役、執行役員、従業員
・保有期間等確約:割当日から上場日前日または行使日のいずれか早い日まで所有
■株主の状況
・第1位:代表者個人の資産管理会社 2,400,000株(48.03%)
・第2位:取締役個人の資産管理会社 1,200,000株(24.02%)
・第3位:代表者個人 600,000株(12.01%)
■新株予約権の状況
・393,200株
・7.87%
■資産管理会社
・代表取締役、及びその他取締役について資産管理会社を保有
・上場の2年前に資産管理会社へ株式移動
■総括
・VCとかも入っておらず、代表者や取締役が中心に株式保有している
・従業員へはストックオプションという形で付与
・上場時に、代表取締役及び取締役は個人保有の株式を売り出し
・上場後においても代表取締役の資産管理会社だけで44%程度の持株割合を維持
・代表者個人の資産管理会社の節税の条件もクリアしており、とてもきれいな資本政策といえる
※詳細は、以下の「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」参照
https://www.jpx.co.jp/listing/stocks/new/nlsgeu0000053lmy-att/12itsumoi-1s.pdf
監査報酬
上場直前の監査報酬の状況は以下のような感じです。
直前期の監査報酬で1,880万円程度となっており、
他社と比べて少しだけ高めといった感じでしょうか。
新規上場株価情報
●事業内容
・EC 総合支援
●業種別分類
・小売業
●株主名簿管理人
・三井住友信託銀行㈱
●監査人
・太陽有限責任監査法人
●幹事取引参加者
・みずほ証券㈱
●発行済株式総数
・4,600,000 株(2020 年 11 月 16 日現在)
●上場時発行済株式総数
・5,400,000 株
(注1)公募分を含む
●公募・売出しの別
・公募:800,000株
・売出し(引受人の買取引受による売出し)600,000株
・売出し(オーバーアロットメントによる売出し)210,000株
●売出株放出元
・代表者個人
・取締役個人
●公募・売出価格
・1,540円
●初値
・3,610円 (公募価格比+2,070円 +134.4%)