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Vol.31【IPO事例】ティアンドエス株式会社

  • 2020.8.8

説明資料の構成

2020年8月7日にティアンドエス株式会社が
東京証券取引所マザーズに株式上場いたしました。

それとあわせて同社から
「成長可能性に関する説明資料」
が公表されていますので、
今回は同内容について確認をしながら、
IPOの背景や状況をレビューしてみたいと思います。

 

まず「成長可能性に関する説明資料」の資料ですが、
以下のような資料構成になっていました。

————————————————-
1. 会社概要
 ①会社概要
 ②経営理念・方針・ビジョン
 ③当社の歩み
2. 事業内容
 ①当社の3事業カテゴリーとサービス内容
 ・ソリューションカテゴリー(基盤事業)
 ・半導体カテゴリー(安定事業)
 ・先進技術ソリューションカテゴリー(成長事業)
 ②業績推移
 ③売上高・営業利益率
3. 市場動向
 ①市場動向
4. 成長戦略
 ①各カテゴリーの成長戦略
 ・ソリューションカテゴリー(基盤事業)
 ・半導体カテゴリー(安定事業)
 ・先進技術ソリューションカテゴリー(成長事業)
————————————————-

ということで、
同説明資料の内容について、
以下でもう少し細かく見ていきたいと思います。

 

概要

まず、最初に会社概要を見てみましょう。

————————————————-
●設立
・2016年11月1日
●役員
・取締役6名(2名)※()内は社外取締役
・監査役3名(2名)※()内は社外監査役
●従業員数
・265名
●所在地
・本社 神奈川県横浜市西区みなとみらい
・四日市事業所 三重県四日市市
・北上事業所 岩手県北上市

●主な事業内容
・大手企業顧客向けシステム開発及び運用保守・インフラ構築
・AI(画像処理・認識・機械学習・論文アルゴリズム評価)等のソフトウエア開発

●主な取引先
・東芝グループ、日立グループ、キオクシア、ソニーグループ、他15社

※以上、同社の「成長可能性に関する説明資料」より抜粋・整理
————————————————-

 

設立して間もない時期に上場ということです。

それにしては社員数も多いですし、
また、大企業が主な取引先として挙げられています。

これはどういう背景でしょうか。

 

これについては、
「当社の歩み」という項目の中で、
過去に20年以上サービスを提供していた2つの会社が
2016年に合併してできた会社だということがわかりました。

つまり、実質的には業歴は長く、
大企業とも従来より取引があったということですね。

 

それでは、
もう少し資料を読み進めていきたいと思います。

 

経営理念・方針・ビジョン

次に同社の経営理念や方針、ビジョンについてです。

———————————————————-
●経営理念
あらゆる産業において、ソフトウエア技術が生み出す新たな付加価値を通じて、
お客様に安心と満足そして豊かさを提供すると共に、社員を大切にし、株主様に貢献します。

●ビジョン
ソフトウエア技術力によりお客様の業務を支援することを基本とし、
次世代AIプロセッサ関連の高度なソフトウエア開発を加速します。

●経営方針
当社の技術力によりお客様の製商品・インフラ開発を支援いたします。
また、社員全員が当社を愛し、自ら成長し、
一人ひとりが希望とやりがいが持てる会社を実現し、
地域社会と共に発展できる地域のコア企業を目指します。

※以上、同社の「成長可能性に関する説明資料」より抜粋・整理
———————————————————-

 

キーワードとして、
「ソフトウエア技術が生み出す新たな付加価値」
ということが述べられています。

また、社員や株主、地域社会から
愛される企業を心がけていることが伝わってきます。

ただ、これだけでは、
同社の具体的な事業内容がまだわかりづらいので、
もう少し読み進めていきたいと思います。

 

事業カテゴリーとサービス内容

経営理念・方針・ビジョンを実現していくために、
同社では、具体的には、3つの事業を展開されているようです。

そして、この3つの事業を
・基盤事業
・安定事業
・成長事業
というステータスに分けて表現されています。

 

以下では、
それぞれについて見ていきたいと思います。

 

ソリューションカテゴリー(基盤事業)

まず1つ目の「基盤事業」として位置付けている
「ソリューションカテゴリー」
について見てみたいと思います。

—————————————————-
●事業概要
・製造業やサービス業など幅広い産業領域のシステム開発を大企業から請負う
・運用・保守を含めた全てのバリューチェーンを網羅したサービスを提供

①事業モデル
・請負を中心とした受託開発事業
②事業領域
・産業領域に特化せず、製造業、サービス業など様々な業種のユーザー企業をターゲット
③事業範囲
・コンサルティング、要件定義、設計、開発、テスト、第三者検証、運用・保守までの
 全ての開発バリューチェーンを網羅
④社内体制
・お客様のご要望に応じて、請負開発及び派遣、両方の形態で
 技術及び人材を提供できる社内体制を整備
⑤事業の特徴(基盤性)
・大手企業グループを中心とした顧客戦略に基づき、
 システム開発・運用 保守を中心としたサービスを展開。
・請負開発だけではなく、第三者検証 ・運用・保守まで幅広く対応
⑥主な得意先
・東芝グループ
・日立グループ
・キオクシア

※以上、同社の「成長可能性に関する説明資料」より抜粋・整理
—————————————————-

 

事業の基盤にされている事業ということですし、
大企業グループからの受託がメインのようなので、
おそらく継続的な受託開発・運用支援をされているのだと思います。

大手企業からの受託が続いている状況から推察するに、
経営理念にもありましたが、
「ソフトウエア技術が生み出す新たな付加価値」
に優れている会社なのだということはうかがい知れます。

2016年に合併設立される前から、
何十年も取引が続いていたと思われますし、
やはりビジネスの「基盤」にはなっている事業なのでしょう。

 

但し、実質的に業歴が長い会社同士が合併し、
4年もかからない間に新規上場をされているということは、
合併時からIPOを前提にしていたと思われますし、
IPOを前提とすると、この基盤事業以外の拡大も
当初より当然意識していたものと思われます。

 

半導体カテゴリー(安定事業)

そこで、次の事業を見ていきたいと思います。

2つ目の「安定事業」として位置付けている
「半導体カテゴリー」
について見てみたいと思います。

—————————————————-
●事業概要
・キオクシアのNAND Flash Memor工場に技術者を派遣して、
 工場内システムの開発及び運用・保守、インフラ構築、ヘルプデスク業務等のサービス提供

①事業モデル
・半導体工場内への技術派遣に特化した事業
②事業領域
・半導体工場に特化し事業展開
③事業範囲
・半導体工場内のシステム開発及び保守・ 運用サービスや、ITヘルプデスク等
 半導体工場のITインフラストラクチャー運用支援全般
④社内体制
・三重県四日市市及び岩手県北上市それぞれの近郊から人材を獲得し、
 それぞれに事務所を構え、地域に密着した派遣体制を整備
⑤事業の特徴(安定性)
・請負開発と異なり、工場システムの運用や保守を中心に工場に常駐する形態で業務に従事
・工場が存続する限り安定的に事業が継続することと人員削減が極めて少ない
⑥主な得意先
・キオクシア

※以上、同社の「成長可能性に関する説明資料」より抜粋・整理
——————————————————-

半導体カテゴリーということで、
どのよう事業内容かと思いましたが、
工場への技術者派遣、という事業のようです。

それも四日市市と北上市の近郊から人材獲得し、
それぞれに事業所を構え、技術者派遣をされているとのこと。

そのうえで顧客への常駐形態のサービス支援ということですが、
その顧客も「キオクシア」とありますので、
大企業である「キオクシア」と一体になっている事業のように思われます。

その意味で、
安定感はある事業かもしれませんが、
一方で、あまり拡大をしていくイメージがもてない事業とも言えます。

 

個人的には、1つ目の基盤事業とそれほど違いは感じられませんし、
ここをIPOの核にするには、物足りない気もします。

IPOをしていくうえでは、
成長性の望まれる事業が必要だと思いますが、
そのような成長領域に事業投資をしていくうえで
1つ目の基盤事業、2つ目の安定事業で
事業存続のベースを整備している、
と見るのがよいでしょうか。

 

先進技術ソリューションカテゴリー(成長事業)

そこで最後に、
気になる3つ目の事業を見てみたいと思います。

同社が「成長事業」と位置付けている
「先進技術ソリューションカテゴリー」についてです。

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●事業概要
・急成長が見込まれる産業領域AIの開発
(画像処理・認識・機械学習・論文アルゴリズム調査等の開発)
・自動運転関連のソフトウエアの開発
・スピントロニクス技術(STT-MRAM)を搭載した
 次世代AIプロセッサ関連のソフトウエア開発への進出

①事業モデル
・高度ソフトウエア技術の請負開発に特化した事業
②事業領域
・急成長が見込まれる産業領域AI(画像処理・認識・機械学習)、
 自動運転等の市場にターゲットを置く
③事業範囲
・AI、自動運転等を導入する自動車、 デジタル家電、カメラ等のメーカー
④社内体制
・博士号を有する人材(6名)を中心に、高度ソフトウエア開発チームを結成
・将来技術を先取りするためにAI及びスピントロニクス技術の共同研究を東北大学と開始
⑤事業の特徴(成長性)
・今後急成長するAI、自動運転、画像系分野に特化し、事業の成長性を狙う
・スピントロニクス技術(STT-MRAM)を搭載した
 次世代AIプロセッサ関連のソフトウエア開発進出予定
⑥主な得意先
・自動車メーカー
・精密機器メーカー
・半導体メーカー

※以上、同社の「成長可能性に関する説明資料」より抜粋・整理
—————————————————-

 

こちらが3つ目の事業であり、
成長事業とのことです。

やはり「AI」とか、「自動運転」とか、
「スピントロニクス技術」といったような、
キーワードがありますね。

まさに成長産業向けのサービスであり、
IPO時の核として、投資家にアピールしていきたい事業は
この部分と言えそうです。

 

1つ目と2つ目の事業は、
どちらかというと過去の実績をベースにした
大企業向けの安定的なビジネスでしたが、
これらの事業で会社としての基盤は確立されています。

そのうえで、
既存の事業で得た経験やノウハウをも活用しながら、
成長分野への進出していくのが、
3つ目の当事業ということです。

 

主な得意先を見ても、
1つ目と2つ目の事業は、
既存の数社の大企業向けのイメージでしたが、
3つ目の当事業は具体的な社名も掲載されていませんので、
新規開拓をしていく分野と思われます。

ということで、
事業説明のストーリーとしては、
「基盤事業⇒安定事業⇒成長事業」
ということでわかりやすいですね。

 

業績

これまでのところで、
事業内容はイメージができてきました。

それでは、次に、
実際の業績について定量的に情報をもとに、
確認をしてみたいと思います。

———————————————
●2016年11月期(第1期)
・売上高:134百万円
・経常損益:▲99百万円

●2017年11月期(第2期)
・売上高:1,905百万円
・経常損益:148百万円
・営業利益率:7.76%(業界平均:6.59%)

●2018年11月期(第3期)
・売上高:2,133百万円
・経常損益:202百万円
・営業利益率:9.42%(業界平均:6.77%)

<事業別売上構成>
・ソリューション:1,831
・半導体:234
・先進技術ソリューション:68

●2019年11月期(第4期)
・売上高:2,297百万円
・経常損益:269百万円
・営業利益率:11.77%(業界平均:6.98%)

<事業別売上構成>
・ソリューション:1,884
・半導体:303
・先進技術ソリューション:109

<顧客別売上構成>
・東芝グループ:33%
・日立グループ:27.6%
・キオクシア:16.1%
・その他:23.3%

●2020年11月期の上半期(第5期の上半期)
・売上高:1,110百万円
・経常損益:167百万円
・営業利益率:14.83%(業界平均:-)
<事業別売上構成>
・ソリューション:892
・半導体:169
・先進技術ソリューション:49

※以上、同社の「成長可能性に関する説明資料」より抜粋・整理

———————————————

 

まだ、設立後間もないことから、
業績推移からだけでは少し状況はわかりづらい点はあります。

但し、このなかでも気になる点を
少しピックアップしてみたいと思います。

 

まずは、売上高の成長率ですが、
IPOということを考えると、
少し物足りないな、というのが率直なところでしょうか。

基盤事業・安定事業の割合が多いことが、
その要因の1つかと思います。

基盤事業・安定事業については
成長性が高いというよりは、
毎期少しずつ成長していくという状況なのだと思います。

そのため、会社全体で見たときの、
売上成長率はどうしても低く表れてしまいます。

 

今後の成長性という意味では、
「先進技術ソリューション事業」
についての成長を見ていくことが必要だと思いますので、
同事業の売上数値を抽出すると以下のような感じです。

・2018年11月期:68百万円
・2019年11月期:109百万円
・2020年11月期(上半期):49百万円

 

直近は半年間だけの数値集計なので、
分析が難しいところですが、
直近の売上高の伸びが低いのが少し気になるところでしょうか。

但し、直近では、
コロナの影響がある特殊な期間なので、
これまでの状況をベースに判断するのは難しいのも確かです。

この点は、同社の2020年11月期の
年度決算の数値を見ていく必要がありそうです。

 

次に気になったポイントとしては、
「営業利益率」
です。

この点は、とても素晴らしい推移になっています。

・2017年11月期:7.76%(業界平均:6.59%)
・2018年11月期:9.42%(業界平均:6.77%)
・2019年11月期:11.77%(業界平均:6.98%)
・2020年11月期(上半期):14.83%(業界平均:-)

 

何が素晴らしいかというと、
・毎年着実に営業利益率が上昇している
・営業利益率が10%を超えてきている
・業界平均と比べて毎年生産性がよくなっている
といった点が見受けられるからです。

 

とくに、直近の営業利益率が
約15%ということで、
これはとても素晴らしい比率だと思います。

今後の営業利益率の推移も期待したいところです。

 

そして、最後になりますが、
顧客別売上構成についてです。

この情報があったのが、
2019年11月期だけでしたが、
おそらく直近においてもそれほど変化はないと思われます。

<顧客別売上構成>
・東芝グループ:33%
・日立グループ:27.6%
・キオクシア:16.1%
・その他:23.3%

 

これを見ると、
基盤・安定事業の大企業顧客(3社グループ)が
約8割を占めています。

見方によっては、
事業が安定しているとも見れますが、
一方で、今後の成長可能性を考えると、
上記の「その他」顧客の割合をどこまで増やせるかがポイントでしょうか。

この「その他」顧客こそ、
成長事業である「先進技術ソリューション事業」の
顧客になると思いますので。

 

まとめ

ということで、今回は、
2020年8月7日に新規上場した
ティアンドエス社の分析でした。

IPOを実現した会社ごとに、
それぞれのコーポレートストーリーがあり、
それに伴う業績数値があります。

IPOを意識している経営者は、
是非、資料の作り等も参考にしながら、
自社のストーリー作りの参考にしていただければと思います。

 

※今回の参考引用元
https://www.release.tdnet.info/inbs/140120200807477414.pdf

 

株式概要

●株主名簿管理人
・三菱UFJ信託銀行㈱

●監査人
・双葉監査法人

●幹事取引参加者
・いちよし証券㈱

●発行済株式総数
・1,580,700株(2020年7月3日現在)

●上場時発行済株式総数
・1,750,700株
(注1)公募分を含む。
(注2)新株予約権の権利行使により

●公募・売出しの別
・公募:170,000株
・売出し(引受人の買取引受による売出し):77,000株
・売出し(オーバーアロットメントによる売出し): 30,000株

●公募 ・売出価格
・2,800円

●初値
・初日:ストップ高で値がつかず6,440円

 ⇒時価総額:6,440円×1,750,700株=112億円

 

 

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