前回までの流れと今回のテーマ
これまで、
・前編:電子帳簿保存法/概要
・中編:電子帳簿保存法/スキャナ保存制度
とご紹介してきました。
これまでお伝えしてきた電子帳簿保存法の内容を
ざっくり整理をすると、
——————————————————–
・「帳簿」の電子化と「証憑類」の電子化の2つに分けられる
・「帳簿」の電子化は、会計システムの機能でカバーすればOK
・「証憑類」の電子化をどのように実現するかが実務上は課題
・「証憑類」の電子化のうち、紙の領収書等を電子化するのが「スキャナ保存制度」
・「スキャナ保存制度」への対応はかなり大変(2022年1月から制度緩和予定)
——————————————————–
といった感じの内容でした。
そして続きとして、今回は、
「電子取引」
についてお伝えをできればと思います。
電子帳簿保存法における「電子取引」とは?
紙の書類は「スキャナ保存制度」を活用して、
電子データ化する流れがあることは前回お伝えしました。
今回は紙以外の書類、つまり、
「取引情報の授受を電磁的方式により行う取引」
についてお伝えしたいと思いますが、
このような取引を電子帳簿保存法上は、
「電子取引」として定義しています。
具体的には、
—————————————————-
・EDI取引、インターネット等による取引
・電子メールにより取引情報を授受する取引(添付ファイルによる場合を含む)
・インターネット上にサイトを設け、当該サイトを通じて取引情報を授受する取引
—————————————————-
といったものがあります。
少しイメージがわきづらいかもしれませんが、
より具体的なイメージとしてお伝えしますと、
たとえば、以下にようなものが「電子取引」に該当します。
—————————————————–
●電子メールにより受け取った請求書や領収書等のデータ
●インターネットのホームページからダウンロードした請求書や領収書等のデータ
●ホームページ上に表示される請求書や領収書等の画面印刷(いわゆるハードコピー)
●クラウドサービスで授受する電子請求書や電子領収書
●クレジットカードの利用明細データ
●交通系ICカードによる支払データ
●スマートフォンアプリによる決済データ
●EDIシステムを活用した電子取引データ
●ペーパレス化されたFAX機能を持つ複合機の情報
●DVD等の記録媒体を介して受領した請求書や領収書等のデータ
—————————————————–
いろいろな業務がデジタル化していくなかで、
上記のようなデータで証憑類をやり取りするケースは、
結構増えてきていると思います。
そのため、今回の「電子取引」に関する電子帳簿保存法上のルールも
実は結構重要な論点になってきている時代といえます。
電子取引と電子データ保存
このような「電子取引」は、
もともと紙で授受するものではないため、
スキャナ保存制度を活用してデータ化することは
基本的に必要はありません。
「そもそも電子データで受け取るので、
逆に論点はないのでは?」
もしかしたら、
このように思われるかもしれません。
(実は私も最初はあまりピンときませんでした)
ただ、もともと電子データで受け取るような証憑類も、
改ざんされたりするリスクもありますし、
また、きちんと保存・保管される必要性は、
紙の証憑類と同じなのは、理解できます。
そのため、
このような「電子取引」のデータについても、
前編でお伝えした「電子データ保存の5要件」である
—————————–
要件①:訂正・削除履歴の確保
要件②:相互関連性の確保
要件③:関係書類等の備付け
要件④:見読可能性の確保
要件⑤:検索機能の確保
—————————–
の要件は確保したうえで、
電子データとして保存することが求められます。
つまり、
電子データとして受け取った証憑類について、
何も考えず保存をすればよいというわけではない、
ということです。
きちんと、上記の要件を満たす形で保存しないと、
電子帳簿保存法の要件を満たさないため、アウトになるのです。
そして、このよう要件を満たせない場合には、
結局、紙に印刷をして紙保存が求められてしまうのです。
せっかく電子データとして受け取ったものでも、
電子帳簿保存法の要件を満たすためのハードルが高く、
印刷して紙保存になってしまうという、
「データ⇒紙」という逆の流れの実務をせざるを得ないのです。
このあたりが電子帳簿保存法を適用する難しいところと言えるでしょう。
電子取引を電子保存するための要件
それでは、このような電子取引を
電子データとしてそのまま保存をするためには、
どのような要件を満たす必要があるのでしょうか?
経営者としては、
細かい内容を覚える必要は当然ありませんので、
まずは、要件がいろいろあることだけでも、
イメージをしてもらえればと思っています。
上記の「電子データ保存の5要件」ごとに、
具体的なルールや留意点を以下にご紹介したいと思います。
—————————————————————–
■要件①:訂正・削除履歴の確保
・以下のいずれかの措置を行ったうえで保存することが規定されている
(1)タイムスタンプ付与データの授受
(2)電子取引データの授受後遅滞なくタイムスタンプを付与
(3)訂正削除できないシステム等のシステムを使用して電子取引データを授受及び保存
(4)訂正及び削除の防止に関する事務処理規程の備付け及び運用
—————————————————————–
■要件③:関係書類等の備付け
・電子取引データを授受するシステムが自社開発EDIシステムやクラウドシステムなどの場合には、
そのシステム開発に当たり作成された開発関係書類の備付けと保存
及びシステムの概要が記載された書類の備付けを行うことが必要
・電子取引データの保存や操作を行うためのマニュアル等を備え付け、閲覧できることも必要
—————————————————————–
■要件④:見読可能性の確保
・保存されている電子取引データを見読するために、
納税地若しくは税務調査を受ける場所にパソコンやソフトウエア、プリンターなどの機器や
これらの操作説明書を備え付け、データをディスプレイの画面及び書面に、
整然とした形式及び明瞭な状態で速やかに出力することができるようにしておくことが必要
—————————————————————–
■要件⑤:検索機能の確保
・取引データの授受方法の態様に応じて、記録事項を検索・表示する機能を確保が必要
・「取引年月日」「その他の日付」「取引金額」「その他主要な項目」を検索条件設定できること
・「日付又は金額」に係る記録項目については,その範囲を指定して条件設定できること
・2つ以上の任意の記録項目を組み合わせて条件を設定できること
・電子取引で使用するシステムで取引データを保存する場合には,
当該使用するシステムにおいて検索要件を満たすことが必要
・電子取引で使用するシステム以外で取引データを保存する場合には,
保存するシステムで検索機能の確保の要件を満たすことが必要
—————————————————————–
いかがでしょうか?
これだけ要件が多いと、
要件のことを考えることすら放棄したくなりますね・・・。
ということで、電子取引データも、
結局、紙に印刷して保存するという、
デジタル化とは真逆の実務が行われてしまうのが実情です。
電子取引データへの対応が今後の実務のポイントになる
前回と今回で、
「スキャナ保存制度」
「電子取引データ保存制度」
について見てきました。
ざっくり整理をすると、
—————————————–
・スキャナ保存制度:紙証憑⇒電子データ化
・電子取引データ保存制度:電子取引データ⇒電子データ化
—————————————–
といった感じでしょうか。
これまでは「紙」証憑が多い時代でしたので、
紙を電子データ化する「スキャナ保存制度」対応に
かなりフォーカスが当てられていた気がします。
但し、これからはデジタル化が加速する中で、
「紙」証憑は減少し、電子取引データが増加していくことが見込まれます。
また、そのなかで、あらゆるWEBサービスが普及し、
電子取引データもあらゆるパターンが生まれてくると思います。
このような形で複雑化する電子取引データについて、
どのように電子帳簿保存法対応していけるかが、
今後は重要になってくると思っています。
ちなみに、この「電子取引」についても、
2021年の税制改正で緩和がありました。
今後は、この緩和された要件を意識しながら、
実務上の業務フローやシステムを検討していくことが必要になります。
ということで、
・Vol.110 経営者のための「電子帳簿保存法」基礎知識【前編】/総論
・Vol.111 経営者のための「電子帳簿保存法」基礎知識【中編】/スキャナ保存制度
・Vol.112 経営者のための「電子帳簿保存法」基礎知識【後編】/電子取引データ制度(今回)
の3回を通じて、現状の制度についてお伝えさせていただきました。
そして、次回ですが、
気になる2021年税制改正における
電子帳簿保存法の改正状況についてお伝えできればと思っています。
経営者としては是非、
自社の業務をデジタル化していくうえで、
最低限留意しておくべきポイントだけでも
押さえていただきたいと思っています。