目次
新規IPO
2020年12月23日にENECHANGE株式会社(情報・通信業)が
東京証券取引所マザーズに上場いたしました。
今回は同社から公表されている資料にもとづき、
IPOの状況を確認してみたいと思います。
上場時資料
■成長可能性に関する説明資料
https://ssl4.eir-parts.net/doc/4169/tdnet/1915050/00.pdf
https://www1.daiwair.jp/qlviewer/e-cast/2012234169p2ed9qrsrv/
■東京証券取引所マザーズへの上場に伴う当社決算情報等のお知らせ
https://ssl4.eir-parts.net/doc/4169/tdnet/1915049/00.pdf
https://ssl4.eir-parts.net/doc/4169/tdnet/1915147/00.pdf
■新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)
https://www.jpx.co.jp/listing/stocks/new/nlsgeu0000053yrr-att/12ENECHANGE-1s.pdf
成長可能性に関する説明資料
■はじめに
まずはじめに、
「クリーン・エネルギー技術で脱炭素社会にむかう世界」
「脱炭素社会を実現する「エネルギーテック」企業」
「「エネルギーの4D」というイノベーション」
という3枚の資料から始まっています。
会社の存在意義的な内容から始まり、
競合他社の具体名を記載しながら、エネルギーテック会社として
既存の競合他社との違いを資料で説明しています。
まず「つかみ」として、
新しい時代の「テック」会社であることを
印象付けている感じでしょうか。
■会社概要
次に会社概要になります。
具体的には、
「会社概要」
「エグゼクティブ・サマリー」
「代表取締役2名の紹介:会社概要」
「プロフェッショナルな経営チーム:会社概要」
「事業展開:会社概要」
といった資料で説明をされています。
このうち、エグゼクティブ・サマリーとしては、
以下の4項目が挙げられています。
—————————————————
・市場機会:世界最大のエネルギー自由化市場で予定される制度改革
・事業領域:エネルギーテック領域のカテゴリーリーダー
・競争力:世界的なエネルギー業界に精通する経営チーム
・ビジネスモデル:ストック型収益を主体とする高成長率
—————————————————
また、このような強みを発揮できる背景として、
強力な経営メンバーを紹介しているような流れになっています。
■財務ハイライト
次に財務情報をもってきています。
具体的には、以下の資料となります。
「企業価値向上の方針:長期でのフリーキャッシュ・フローの最大化を目指す」
「連結売上高の推移:売上高は過去最高達成見込み」
「売上高推移(セグメント別):プラットフォーマー×データの両輪経営による高成長」
「ARRの推移:ストック型収益の増加による収益性向上」
このパートでは、
長期的な売上拡大・利益拡大を目指すためのKPIや
高成長率の実績についてまとめています。
まだまだ損益分岐点ギリギリの印象ですが、
プラットフォーマーとしてストック型の売上モデルを実現することで、
中長期的には安定的な収益化が目指せるとのことです。
■事業概要
次に事業概要ですが、
・エネルギープラットフォーム
・エネルギーデータ
という2つの切り口をもとに整理をされています。
まずは「エネルギープラットフォーム」の方の整理ですが、
具体的には以下の資料で説明をされています。
「サービス概要:日本最大級の電力・ガス切替プラットフォーム」
「サービス特徴:多彩な料金プランの中から最適なプラン選びをサポート」
「市場推移:電力契約切替数の増加による成長機会」
「ビジネスモデル:電気・ガス代従量課金のストック型収益」
「成長への取り組み①:日本市場の成長余力」
「成長への取り組み②:パートナーチャネルの拡大」
「KPI:切替件数・ARPUともに堅調な拡大を見込む」
次に「エネルギーデータ」という軸での整理ですが、
具体的には以下の資料で説明をされています。
「サービス概要:電力・ガス会社向けクラウド型DXサービス」
「サービス特徴:ビッグデータ解析を軸としたサービス提供」
「市場推移:エネルギー業界のIT予算増加による成長機会」
「ビジネスモデル:月額ライセンス料課金のストック型収益」
「成長への取り組み:2022年春の「電力データ自由化」による顧客層拡大」」
「KPI:顧客数・ARPUともに堅調な拡大を見込む」
それぞれの軸で、
サービス概要・特徴から、市場分析、
また、ビジネスモデルやKPIについてまとめられており、
同社の事業がわかりやすい資料となっている印象です。
成長可能性が高いことも想像できますが、
あとはこれがどれくらい利益に結び付いていくのか、
といったあたりについては言及がなく、
気になるところといった感じでしょうか。
■今後の成長ポテンシャル
そして成長ポテンシャルについての説明になりますが、
ここでは「3つの成長機会」という形で整理をされています。
この3つとは、
①巨大な国内市場における継続的な成長機会
②「電力データ自由化」による非連続な成長機会
③海外市場への本格展開
とのことです。
そして、このような成長機会への取組みについて、
「サービス開発ロードマップ:エネルギー制度改革にあわせた非連続な成長機会」
「海外市場への本格展開:アジアにプラットフォーム、欧州にデータを展開」
という2つの資料で補足説明をしています。
そして、最後に「ENECHANGEが目指す世界」として
「「エネルギーの4D」が実現した未来、その中心にいるENECHANGE」
といった資料で締めくくっています。
■APPENDIX
最後に補足資料をつけています。
具体的には、
「事業ハイライト:対象市場規模」
「認識するリスク」
の2つの資料です。
まずは市場規模については
「TAM(対象市場規模)3,400億円、ターゲット市場 800億円」
ということで説明がされており、
具体的な数値が示されているのはわかりやすい点かと思います。
また、認識するリスクについては、
かなり細分化して、事業ごとに整理している点で、
投資家にとって親切な資料と言えます。
財務数値の特徴
まずはB/Sについては以下のような感じです。
資産については、それほど重いものはなく、
預金と売掛金で総資産の8割を占めていて、
流動性の高い構成と言えます。
また、負債の方もそれほど特徴的なものはありませんが、
「転換社債型新株予約権付社債」が5億円弱程度あるのが、
目立っている感じでしょうか。
純資産については、
資本金・資本準備金は上場前に13億円くらいありますが、
利益剰余金が10億円くらいのマイナスになっているため、
純資産合計としては3億円程度となっており、
この点、財務健全性という点はまだ少し不安定な感じでしょうか。
次にP/Lの方はどうでしょうか。
まず気になるのが直前期において、
営業損益が3億円程度の赤字になっている点です。
売上の伸びもそれほどなく、
かつ、粗利については逆に前年より小さくなっています。
成長可能性や事業採算という点でどうなっていく感じなのか、
まだ未知数といった印象です。
資本政策
■特別利害関係者等の株式等の移動状況
<有価証券上場規程施行規則第253条の規定>
東京証券取引所マザーズへの上場にあたり、
特別利害関係者等が、新規上場申請日の直前事業年度の末日から起算して
2年前の日(2018年1月1日)から上場日の前日までの期間において、
発行する株式又は新株予約権の譲受け又は譲渡を行っている場合には、
「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」に記載することとされています。
<コメント>
特別利害関係者等の株式等の移動が、
とても多く整理するのが難しいのですが、
移動理由としては、主に以下のような理由によります。
————————————————–
・移動前所有者の退職による割当時契約の履行
・事業上のシナジーを目的とした資本業務提携に伴う当社要請に応じる形での売却
・安定株主の確保のため
・譲渡先の変更に伴う譲渡の取消
・譲渡先の変更に伴う譲渡の取消
・移動前所有者の事情による
・移動前所有者のグループ内株式移管
・新株予約権付社債に係る新株予約権の行使
・優先株式の取得にあわせて普通株式の交付
————————————————–
■第三者割当等の概況
2018年1月
・発行数 :普通株式30,000株(分割後ベース:90,000株)
・発行価格:1,000円(分割後ベース:333円)
※DCF法により算定された価格を参考として決定 しております
・発行方法:第三者割当
・対象者:従業員、社外協力者
2018年2月
・第5回新株予約権
・発行数 :5,208株(分割後ベース:15,624株)
・発行価格:1,000円(分割後ベース:333円)
※DCF法により算定された価格を参考として決定
・発行方法:2018年2月2日開催の臨時株主総会において付与決議
・対象者:子会社役員、社外協力者、子会社のアドバイザー
2018年9月
・第6回新株予約権
・発行数 :140,000株(分割後ベース:420,000株)
・発行価格:1,027円(分割後ベース:342円)
※DCF法により算定された価格を参考として決定した行使価額に、
モンテカルロ・シミュレーションにより算定された権利価格を加算して決定
・発行方法:2018年9月10日開催の臨時株主総会において付与決議
・対象者:代表取締役
2018年9月
・第7回新株予約権
・発行数 :210,000株(分割後ベース:630,000株)
・発行価格:1,027円(分割後ベース:342円)
※DCF法により算定された価格を参考として決定した行使価額に、
モンテカルロ・シミュレーションにより算定された権利価格を加算して決定
・発行方法:2018年9月10日開催の臨時株主総会において付与決議
・対象者:社外協力者
2019年11月
・第1回無担保転換社債型新株予約権付社債
・発行数 :150,000株(分割後ベース:450,000株)
・発行価格:3,300円(分割後ベース:1,100円)
※DCF法により算定された価格を参考として決定
・発行方法:2019年11月22日開催の臨時株主総会において発行決議
・対象者:株式会社大和証券グループ本社
■株主の状況
・第1位:代表取締役 1,879,725株(23.86%)
・第2位:代表取締役 794,379株(10.08%)
・第3位:社外協力者で時価発行新株予約権信託の受託者 630,000株(8.0%)
■新株予約権の状況
・2,177,301株
・27.64%
■資産管理会社
・存在はするが、株の保有はほとんどなし
■総括
・株式の移動が複雑である
・ストックオプションをかなり多数発行している
※詳細は、以下の「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」参照
https://www.jpx.co.jp/listing/stocks/new/nlsgeu0000053yrr-att/12ENECHANGE-1s.pdf
監査報酬
上場直前の監査報酬の状況は以下のような感じです。
直前期の監査報酬で1,900万円程度となっており、
他社と比べると若干高めといった印象です(連結決算だからだと思われます)。
新規上場株価情報
●事業内容
・消費者向けの電力・ガス切替えプラットフォーム「エネチェンジ」等の運営を行うエネルギープラットフォーム事業、
エネルギー会社等向けのクラウド型DX サービス「EMAP(デジタルマーケティング支援 SaaS)」
及び「SMAP(スマートメーター活用SaaS)」等の提供を行うエネルギーデータ事業
●業種別分類
・情報・通信業
●株主名簿管理人
・みずほ信託銀行㈱
●監査人
・有限責任 あずさ監査法人
●幹事取引参加者
・みずほ証券㈱
●発行済株式総数
・5,700,000 株(2020 年 11 月 18 日現在)
●上場時発行済株式総数
・5,750,000 株
(注1)公募分を含む
(注2)新株予約権の権利行使により増加する可能性がある。
●公募・売出しの別
・公募:50,000 株
・売出し(引受人の買取引受による売出し)330,000 株
・売出し(オーバーアロットメントによる売出し)57,000 株
●売出株放出元
・㈱日立製作所
・EEI スマートエナジー投資事業有限責任組合
●公募・売出価格
・600円
●初値
・2,400円 (公募価格比+1,800円 +300.0%)