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Vol.84【IPO事例】株式会社ヤプリ

  • 2021.1.3

新規IPO

2020年12月22日に株式会社ヤプリ(情報・通信業)
東京証券取引所マザーズに上場いたしました。

今回は同社から公表されている資料にもとづき、
IPOの状況を確認してみたいと思います。

 

上場時資料

■成長可能性に関する説明資料

https://ssl4.eir-parts.net/doc/4168/tdnet/1914744/00.pdf

■東京証券取引所マザーズへの上場に伴う当社決算情報等のお知らせ

https://ssl4.eir-parts.net/doc/4168/tdnet/1914737/00.pdf

■新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)

https://www.jpx.co.jp/listing/stocks/new/nlsgeu0000053g4i-att/12Yappli-1s.pdf

 

成長可能性に関する説明資料

■会社概要

まずは会社概要について、
全体像を一通り説明されています。
具体的には、以下の資料を用いての説明となります。

「会社概要」
「ソフトウェア開発の経験豊富な経営陣」
「Web、ECに続いてアプリ開発もノーコード(プログラミング不要)の時代へ」
「Yappliの実績数字」
「ノーコードのアプリ開発・運用・分析プラットフォーム」
「Yappliはワンストップでアプリ開発の課題を解決」
「Yappliプラットフォームが提供する主なソリューション」
「日本を代表する企業への導入実績」
「月額利用料を主とするサブスクリプションモデル」

 

まず目が留まったのが、
資本金等が「29億4,480万円(資本準備金を含む)」とある点です。

上場前からかなりの資金調達を実施している様子です。
この時点で、先行投資型のビジネスだということが想像できます。

 

そして、ビジネスとしては、
「Web、ECに続いてアプリ開発もノーコード(プログラミング不要)の時代へ」
という流れの中で、
「ノーコードのアプリ開発・運用・分析プラットフォーム」
を提供している会社だということがわかります。

日本を代表する企業への導入実績も示されておりますし、
実績も兼ね備えたサービスだということも資料から読み取れます。

 

また、収益モデルとしては、
「月額利用料を主とするサブスクリプションモデル」
ということで、
やはり、開発費や広告宣伝費へ先行投資をして、
市場のシェア拡大を優先するステージなのだと思われます。

 

■カンパニーハイライト

次に、資料の作りとして、
カンパニー・ハイライトという目次的なページに以下の4つの項目を掲げ、
この4つの内容をそれぞれ説明していく作りになっています。

①広い市場機会とユニークなマーケットポジション
②顧客数の拡大と高い売上・MRR成長の実現
③アプリユーザーの拡大に伴い高まる継続率
④成長戦略

 

ちなみに、余談ですが、
このタイプの資料体系は、ちょうど前回ご紹介した
株式会社Kaizen Platform【IPO事例】
とまったく同じような印象です。

VCもたくさん入れて、資金調達をしながら、
先行投資をしている情報通信系の事業ということで、
その点で、なんとなく似たような雰囲気を感じました。

 

■①広い市場機会とユニークなマーケットポジション

まずは市場分析
同社のポジショニングといった視点での説明になります。

具体的には、
「企業のDXは加速するも、支えるIT人材は不足」
「際立つ日本のIT人材の不足」
「国内のSaaS市場はIT人材の不足を補う形で成長中」
「アプリ利用者の拡大と、高いエンゲージメント」
「日本の高いマーケットポテンシャル」
「市場開拓のロードマップ」
「大企業向けノーコードプラットフォームとしてユニークな存在」
「プロダクトの継続的な強化により参入障壁を構築」
といった資料での説明になります。

 

DXの流れが世の中で加速していますが、
そのなかでIT人材が不足しているということは、
よく聞かれることです。

そのあたりについて、
具体的にどれくらいIT人材が不足しているのか、
また、その不足を補うものとして、
同社のサービスが位置づけられることを説明しています。

 

そのうえで、世界と比べても、
日本市場の潜在的な可能性が高いことを示すことで
同社の成長余地を説明しています。

また、同社のポジショニングについては、
2軸の図を使用してわかりやすく示せていると思います。

 

■②顧客数の拡大と高い売上・MRR成長の実現

次に、同社のサービス提供実績について、
成長率がわかる数値も用いながら、説明しているパートになります。

具体的には
「顧客獲得及び導入、運用の流れ」
「契約アプリ数は継続的に拡大」
「年間合計MRRはFY17-19にて88%のCAGRを達成」
「売上高はFY17-19にて69%のCAGRを達成」
といった資料を用いて説明をしています。

 

これらの資料を確認すると、
MRRやCAGRといった数値指標をもとに
同社の成長してきた実績がわかります。

 

■③アプリユーザーの拡大に伴い高まる継続率

次に、成長をしていくうえで重要な視点である解約率や
アップセル、クロスセルの状況についての説明があります。

具体的には、以下の2枚の資料を用いています。
「顧客数、単価が拡大している中でも、1%未満の解約率を維持」
「アップセル、クロスセル、低い解約率によりネガティブチャーンを実現」

 

グラフや数値を用いて説明をされていますが、
「アップセル、クロスセル、低い解約率によりネガティブチャーンを実現」
の資料については、少し情報が少なくわかりづらい気もしました。

 

■④成長戦略

そして、カンパニー・ハイライトの最後として、
成長戦略についてです。

具体的には、
「ターゲット業界の深耕・拡大」
「連携サービスを増やし、プラットフォームの価値を拡充」
「各種データでYappliの機能及び顧客のデータアセットを強化」
の3つの資料で説明をされています。

 

こちらの資料については、
全体的なイメージはできたのですが、
具体的な数値要素の記載がなかったので、
もう少し定量的な情報があるとイメージがしやすいと
個人的には感じました。

 

■財務ハイライト

そして、次に財務に関する情報です。

具体的には、
「収益・費用の内訳」
「将来の収益構造の変化に関する見通しについて」
という2枚の資料を用いています。

 

こちらの資料を確認すると、
売上高は順調に拡大をしていますが、
営業赤字もそれに合わせて拡大している状況です。

意識的に「Sales & Marketing」に
かなりのコストをかけていることは伝わってきましたので、
要因がわかっているという点では理解はできる数値です。

 

但し、いつの時点で損益分岐点をクリアし、
利益拡大ステージになるかの見通しについては記載がありませんでしたので、
このあたりはもう少し情報があると、
安心感を得られやすいのではないかと思いました。

 

■補足資料

そして最後に、補足資料です。

具体的には、
「沿革」
「経営において認識される主なリスク」
「新型コロナウィルス感染症の拡大の影響と対応策」
についての資料が用意されています。

 

財務数値の特徴

まずはB/Sについては以下のような感じです。

 

資産については、
資産総額に占めるソフトウェアの割合が若干高いですが、
とはいえ、業種を考えると高すぎる印象はありません。

結局、資産のほとんどはキャッシュになりますし、
借入金の額より預金の額の方が大きいので、
実質無借金経営となっています。

 

自己資本比率も50%程度あるので、
その点ではまだ健全ですが、
利益剰余金のマイナスが積み上がっている点は、
少し気になるところでしょうか。

ちなみに、IPOの申請期において、
追加の資金調達をしているので、
資本金等はさらに厚くなっているのですが、
一方で損失も拡大している様子ですので、
その点で、自己資本比率は引き続き50%程度、
といった感じのようです。

 

次にP/Lの方はどうでしょうか。

 

やはり気になるのが営業赤字が拡大しているところでしょうか。
要因は、広告宣伝費によるものと思いますが、
このあたりの経費コントロールをしながら、
投資効率をあげていけるかどうかが気になるところです。

今回のIPOでさらなる資金調達も実施して、
資金的には余力はまだまだあると思いますが、
できるだけ早期の黒字化、利益創出期に移行したいところです。

 

資本政策

■特別利害関係者等の株式等の移動状況

<有価証券上場規程施行規則第253条の規定>
東京証券取引所マザーズへの上場にあたり、
特別利害関係者等が、新規上場申請日の直前事業年度の末日から起算して
2年前の日(2018年1月1日)から上場日の前日までの期間において、
発行する株式又は新株予約権の譲受け又は譲渡を行っている場合には、
「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」に記載することとされています。

2019年5月
・代表含む取締役3名⇒VC3社(理由:同社の資本政策による
・21,000円×604株(割合:約0.1%)
・その後の株式分割を考慮すると「700円×181,200株」となる
・株価はDCF法により算定された価格を総合的に勘案して決定
・約1年半後には上場を果たし、株価(公募価格)は3,160円(約4.5倍)となっている

2019年6月
・代表含む取締役3名⇒VC1社(理由:同社の資本政策による
・21,000円×979株(割合:約0.2%)
・その後の株式分割を考慮すると「700円×293,700株」となる
・株価はDCF法により算定された価格を総合的に勘案して決定
・約1年半後には上場を果たし、株価(公募価格)は3,160円(約4.5倍)となっている

2020年8月
VCからの優先株式取得⇒対価として普通株式交付
・取締役会の決議に基づき、
 A種優先株式及びB種優先株式、C種優先株式すべてを自己株式として取得し、
 対価としてA種優先株式及びB種優先株式、C種優先株式1株につき普通株式1株を交付
・当該優先株式の発行時の価格は、DCFにより算定された価格を総合的に勘案して決定
・当該価格は普通株式1株との権利の違いも考慮したものとなっている
・優先株式1株の発行時の価格は、
 A種優先株式50,000円
 B種優先株式 180,000円
 C種優先株式525,000円
・普通株式への転換比率は優先株式に付された普通株式への取得請求権に定められた比率によっている
・取得したA種優先株式、B種優 先株式、C種優先株式は、
 2020年8月25日付で会社法第178条に基づきすべて消却
・2020年 8月25日開催の臨時株主総会において定款変更が決議され、
 2020年9月14日付で種類株式を発行する旨の定款の定めを廃止

2020年9月
VCによる新株予約権行使によりC種優先株式1,250株交付
・600,000円×1,250株(割合:約0.3%)
・その後の株式分割を考慮すると「2,000円×375,000株」となる
・株価は、新株予約権行使条件による価格(DCF法により算定された価格を総合的に勘案して決定)
・3ヵ月後には上場を果たし、株価(公募価格)は3,160円(約1.5倍)となっている
・当該C種優先株式1,250株をVCから取得⇒対価として普通株式交付
・株主からの取得請求権行使に基づき、C種優先株式すべてを自己株式として取得
・対価として普通株式1株を交付
・当該優先株式の発行時の価格は、DCF法により算定された価格を総合的に勘案して決定
・当該価格は普通株式1株との権利の違いも考慮したものとなっている
・普通株式への転換比率は優先株式に付された普通株式への取得請求権に定められた比率によっている
・取得しC種優先株式は、2020年9月11日付で会社法第178条に基づきすべて消却
・2020年8月25日開催の臨時株主総会において定款変更が決議され、
 2020年9月14日付で種類株式を発行する旨の定款の定めを廃止

 

■第三者割当等の概況

優先株式の発行、新株予約権の発行がありますが、
いくつかりますので、Ⅰの部から転載させていただきます。

優先株式についてはVCへの発行であり、
新株予約権は、主に役員や従業員への発行となります。

 

 

■株主の状況

・第1位:代表者個人 2,348,100株(18.72%)
・第2位:取締役個人 2,348,100株(18.72%)
・第3位:YJ1号投資事業組合  2,102,400株(16.76%)

 

■新株予約権の状況

・1,230,000株
・9.81%

 

■資産管理会社

・該当なし

 

■総括

VCが多数入っており、上場前にかなりの資金調達も実施している
・従業員へは主にストックオプションで手当てをしている

※詳細は、以下の「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」参照
 https://www.jpx.co.jp/listing/stocks/new/nlsgeu0000053g4i-att/12Yappli-1s.pdf

 

監査報酬

上場直前の監査報酬の状況は以下のような感じです。

直前期の監査報酬で1,200万円となっております。

 

新規上場株価情報

●事業内容
・スマホアプリの開発・運用・分析をノーコード(プログラミング不要)で提供する
 アプリプラットフォーム「Yappli」の運営
●業種別分類
・情報・通信業
●株主名簿管理人
・三井住友信託銀行㈱
●監査人
・有限責任 あずさ監査法人
●幹事取引参加者
・みずほ証券㈱
●発行済株式総数
・11,313,600 株(2020 年 11 月 13 日現在)
●上場時発行済株式総数
・11,663,600 株
 (注1)公募分を含む
 (注2)新株予約権の権利行使により増加する可能性がある。
●公募・売出しの別
・公募:350,000株
・売出し(引受人の買取引受による売出し)4,495,400株
・売出し(オーバーアロットメントによる売出し)726,600株
●売出株放出元
・YJ1号投資事業組合
・グロービス4号ファンド投資事業有限責任組合
・Globis Fund Ⅳ, L.P.
・Salesforce.com, inc.
・Eight Roads Ventures Japan Ⅱ L.P.
・テクノロジーベンチャーズ4号投資事業有限責任組合
・代表者含む取締役3名
・個人株主1名
●公募・売出価格
・3,160円
●初値
・5,240円 (公募価格比+2,080円 +65.8%)

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