目次
従来の電子帳簿保存法の欠点
これまでの電子帳簿保存法のルールについては、
・Vol.110 経営者のための「電子帳簿保存法」基礎知識【前編】/総論
・Vol.111 経営者のための「電子帳簿保存法」基礎知識【中編】/スキャナ保存制度
・Vol.112 経営者のための「電子帳簿保存法」基礎知識【後編】/電子取引データ保存
でお伝えしてきました。
電子データ保存を目指すという方向性は大歓迎なのですが、
不正や改ざん防止を意識しすぎていて、
普通の会社では対応が難しいルールが多いというのが実情です。
本来は、電子データ保存を実現することで、
業務効率を上げていけるはずなのですが、
電子帳簿保存法に従って運用をしようと思うと逆に効率が悪くなって、
コストもかかってしまう、といった感じです。
長年少しずつですが、
電子帳簿保存法のルールも緩和されてきた流れはあったのですが、
現場実務で受け入れられるほどの緩和ではありませんでした。
ただ、今回の2021年税制改正では、
大幅な緩和が行われることになりました。
今回の緩和は、
現場実務を変えるほどのインパクトがあると思いますので、
やっと、本当に意味で電子帳簿保存法の時代が到来するような気がします。
2022年1月からは「スキャナ保存制度」のこの点が変わります!
まずは「スキャナ保存制度」の方から、
税制改正の内容を確認してみたいと思います。
スキャナ保存制度は、
いわゆる「紙で受領したものを電子データ化して保存する場合」の手法です。
これまでの制度との対比で、
ざっくり説明をさせていただきますと、
以下のような改正となります。
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①事前の承認制度
・改正前:事前に3ヵ月前に申請・承認が必要
・改正後:承認制度の廃止
②領収書等の受領書の署名
・改正前:領収書等の受領者が自署をしたうえでスキャン
・改正後:受領者の署名の廃止
③領収書等の受領者のタイムスタンプ期限
・改正前:3営業日以内のタイムスタンプ
・改正後:最長2ヵ月以内のタイムスタンプ
④タイムスタンプ
・改正前:スキャンにあたってはタイムスタンプ必須
・改正後:訂正・削除を確認できたり、訂正・削除ができない仕組みの場合にはタイムスタンプ不要
⑤原本廃棄前の相互牽制・定期検査
・改正前:相互牽制体制の構築と定期検査を行ったうえで原本廃棄できる
・改正後:相互牽制、定期検査がなくても原本破棄できる
⑥スキャナ保存データの検索要件
・改正前:各種項目検索、範囲指定検索、組合せ検索、といった要件が必須
・改正後:検索項目は「日付」「取引先」「金額」に限定、範囲指定検索・組合せ検索の要件不要
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いかがでしょうか?
これだけ緩和がされれば、
実務でも運用していけるイメージができます。
たとえば、これまで不評だった「自署」についても
今後は不要になることは大歓迎ですし、
究極的にはタイムスタンプも不要になるということで、
かなり身近な制度になった気がします。
原本もすぐに廃棄できるようになります。
また、これまでスキャナ保存制度を意識したサービスはあったかと思いますが、
どうしても厳しい要件を満たすために、各種機能が搭載され、
サービス(ソフト)購入にもそれなりにコストがかかっていたのではないかと思いますが、
今後は、より手軽な電子帳簿保存法対応ソフトが普及していくような気もします。
政府がここまで一気に緩和をしてきた背景には、
政府主導で起きているデジタル化の流れを
本気で進めていこうということだと思いますので、
是非、この波に乗ってきたいところですね。
なお、今回のような緩和により、
当初懸念されていた不正や改ざん、
といったリスクをカバーするために、
緩和されたルールを破った場合の罰則を強化する、
といった感じで対応を図っているのも今回の税制改正の特徴です。
具体的な罰則としては、
重加算税を10%加重するといった感じになるようです。
2022年1月からは「電子取引データ保存制度」のこの点が変わります!
次に「電子取引」についてです。
こちらは、
「電子データで受け取ったデータを
そのまま電子データで保存をするための制度」
についてです。
具体的には、以下のような改正がありました。
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①訂正・削除履歴の確保
・改正前:タイムスタンプにより訂正・削除履歴確保をする場合には遅滞なくスタンプを付与
・改正後:タイムスタンプの期限は最長2ヵ月以内
②電子取引データ保存の検索要件
・改正前:各種項目検索、範囲指定検索、組合せ検索、といった要件が必須
・改正後:検索項目は「日付」「取引先」「金額」に限定、範囲指定検索・組合せ検索の要件不要
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スキャナ保存制度ほどは大きな改正はありませんが、
タイムスタンプの付与期限の緩和や、
保存するデータの検索要件の緩和については、
スキャナ保存制度と足並みをそろえる形で緩和がされる感じです。
経営者として2021年中に取り組んでおくべきこと
ということで、とてもざっくりではありますが、
電子帳簿保存法に関連する2021年税制改正の内容について、
今回はお伝えさせていただきました。
経営者としては、まずはイメージだけでも
押さえておいていただきたいと思います。
そのうえで、今後、業務のデジタル化や効率化を考えていくのであれば、
税務的にも要件を満たす形にした方が良いと思いますので、
2021年は「電子帳簿保存法」対応について本気で検討すべき時期になってきたと思います。
ただ、なかなか制度概要と実際の社内業務との関連性が
イメージできない部分も多いかもしれませんが、
今後の記事のなかでは、もう少し具体的な業務フローを例に、
お伝えもしていきたいと思っていますが、
今回はまずは税制改正の概要ということで、
このあたりで終わらせていただきます。