
中小企業の経営者や経理担当者の皆様にとって、税理士は単なる記帳代行者ではなく、経営の重要なパートナーです。しかし、「今の税理士で本当に良いのだろうか?」「自社にもっと合う税理士がいるのではないか?」といった悩みは尽きません。特に、会社の成長段階やニーズの変化に伴い、「税理士変更」を検討するケースも少なくないでしょう。
世の中には様々な規模の税理士事務所が存在しますが、今回は「税理士1名+スタッフ数名(~5名程度)」という、比較的小規模な組織体制の税理士事務所に焦点を当てて解説します。
この規模の事務所は、独立したての1名事務所から少し成長した段階であり、多くの税理士事務所が経験するフェーズです。「税理士紹介」サービスを利用したり、自ら「税理士探し」をする中で、候補に挙がることも多いのではないでしょうか。
この記事では、そんな「税理士1名+スタッフ数名」の事務所が持つ特徴、メリット、そしてデメリットについて、中小企業の経営者・経理担当者様の視点に立ち、詳しく掘り下げていきます。今の税理士が自社に適しているのか、税理士選びや見直しの際の判断材料を得ていただければ幸いです。
「税理士1名+スタッフ数名」事務所の成り立ちと特徴
まずは、この規模の税理士事務所がどのような背景で生まれ、どのような特徴を持っているのかを見ていきましょう。
成長のステップ:1名事務所からの進化
多くの場合、このタイプの事務所は、もともと税理士1人でスタートした事務所が、顧問先企業の増加に伴って業務量が増え、1人では対応しきれなくなった結果、スタッフを雇用し始めた段階にあります。税理士自身が全ての業務をこなす限界を感じ、主に記帳代行などの定型的な作業を任せるために、パートタイムや正社員の事務スタッフを採用するところから始まるケースが多いです。
業務分担の開始:税理士とスタッフの役割
この段階では、多くの場合、以下のような役割分担が見られます。
税理士: 顧問先との打ち合わせ、経営相談、税務判断、申告書の最終チェックなど、専門的な知識や判断が求められるコア業務を担当。
スタッフ: 会計ソフトへの入力(記帳代行)、資料整理、簡単な問い合わせ対応、税理士の指示に基づく補助業務などを担当。
クライアントから見た印象:意外と変わらない?
顧問先の経営者や経理担当者から見ると、主要な打ち合わせや相談事は依然として税理士本人が対応することが多いため、「税理士1名事務所の頃と、それほど大きな違いを感じない」というケースもあります。特に、税理士がクライアントとのコミュニケーションを重視している場合は、この傾向が強いでしょう。窓口が税理士本人である安心感は、引き続き得られることが多いです。
事務所内部の変化:効率化と新たな課題
スタッフとの分業により、税理士はより多くのクライアントに対応できるようになり、事務所全体の業務処理能力は向上します。一方で、内部では変化も生じます。
効率化: 定型業務をスタッフに任せることで、税理士はより専門的な業務に集中できます。
情報共有の必要性: 税理士が全ての入力作業を直接行うわけではないため、スタッフとの間で正確な情報共有が不可欠になります。
品質管理の課題: スタッフのスキルや経験によっては、処理の精度にばらつきが出たり、税理士の意図と異なる処理が行われたりするリスクも生じ始めます。税理士自身が全ての細部を把握しきれなくなる可能性も出てきます。
メリット:なぜ「バランスの取れた選択肢」となり得るのか?
では、この「税理士1名+スタッフ数名」の事務所と契約することには、どのようなメリットがあるのでしょうか? 中小企業の経営者・経理担当者にとって魅力的な点を挙げていきます。
税理士本人の実務経験と対応力の向上
多くのクライアントを担当する経験を通して、税理士自身の知識やノウハウが蓄積され、実務対応能力が向上している可能性が高いです。様々な業種や事例に触れることで、より幅広い相談に対応できるようになっていることが期待できます。これは、1名事務所で経験が浅いかもしれないという懸念があった場合と比較すると、メリットと言えるでしょう。
サービス品質の安定化・回復
税理士1名で「売れっ子」状態になると、どうしても業務がパンクしがちになり、レスポンスが悪くなったり、作業に遅れが出たりすることがあります。このような「キャパオーバー」の状態から、スタッフを採用して業務を分担することで、事務所全体の業務処理能力が向上し、結果的にサービスの質が安定、あるいは回復する可能性があります。以前よりも連絡が取りやすくなったり、試算表の提出が早くなったりといった改善が見られるかもしれません。
比較的リーズナブルな顧問料の維持
スタッフ数がまだ数名程度であれば、事務所の固定費(人件費、家賃など)は大規模事務所ほど大きくありません。そのため、顧問料も中規模・大規模事務所と比較すると、まだ手頃な価格帯で設定されていることが多いです。「税理士本人の専門知識」と「スタッフによる業務サポート」という体制を、比較的リーズナブルな価格で利用できるのは、大きなメリットと言えます。
税理士との直接的な接点の維持
前述の通り、この段階ではまだ税理士本人がクライアントとの主要な窓口であることが多いです。経営上の重要な相談や、決算前の打ち合わせなど、肝心な場面では税理士と直接話せる安心感があります。「スタッフ任せにされている」と感じることは、まだ少ないでしょう。経営者としては、自分の会社のことを深く理解してくれている税理士本人と直接コミュニケーションを取れることは、非常に重要です。
1名事務所の弱点をカバーする組織力
税理士1名事務所の最大の弱点は、マンパワー不足とバックアップ体制の欠如でした。スタッフがいることで、この弱点がある程度カバーされます。
業務継続性: 税理士が一時的に不在(出張、研修、病気など)の場合でも、スタッフが簡単な問い合わせに対応したり、ルーティン業務を進めたりすることができます。完全に業務がストップするリスクが低減します。
分業による効率化: 税理士とスタッフで業務を分担することで、より効率的に業務を進めることができます。
デメリットと注意点:「税理士探し」「税理士変更」で考慮すべきこと
一方で、この規模の事務所ならではのデメリットや、契約を検討する上で注意すべき点も存在します。「税理士探し」や「税理士変更」を成功させるためには、これらの点をしっかり理解しておくことが重要です。
サービス品質のばらつきリスク
業務の一部をスタッフが担うため、そのスタッフの経験、スキル、あるいは仕事への取り組み方によって、提供されるサービスの質(特に会計入力の精度や資料作成の丁寧さなど)にばらつきが生じる可能性があります。また、スタッフの入れ替わりが激しい事務所の場合、担当者が頻繁に変わり、その都度コミュニケーションを取り直す必要が出てくるかもしれません。これは、経理担当者にとってはストレスになる可能性があります。
情報共有・管理体制の重要性
税理士が全ての業務プロセスを直接見ているわけではないため、スタッフとの情報共有がうまくいっていないと、細かな点で認識の齟齬が生じたり、ミスが発生したりする可能性があります。「税理士先生はこう言っていたのに、スタッフさんからは違うことを言われた」といった状況が起こるかもしれません。事務所内のコミュニケーション体制やチェック体制がしっかりしているかどうかが重要になります。
税理士との接点が減っていく可能性(将来的な懸念)
事務所がさらに成長し、スタッフの数が増えていくと、税理士は事務所全体のマネジメント(スタッフの採用、教育、業務管理など)に費やす時間が増え、必然的に個々のクライアントとの直接的な関与が減っていく可能性があります。当初は税理士と密にコミュニケーションが取れていたとしても、徐々にスタッフとのやり取りがメインになり、「税理士先生の顔が見えにくくなった」と感じるようになるかもしれません。これは、経営者が税理士との直接対話を重視する場合、「税理士変更」を考えるきっかけになる可能性があります。
スタッフの教育体制と質の問題
スタッフの質は、事務所全体のサービス品質に直結します。しかし、小規模事務所の場合、十分な教育体制が整っていないケースもあります。税理士自身がプレイングマネージャーとして多忙な場合、スタッフ教育に十分な時間を割けないことも考えられます。また、税理士自身のマネジメント能力も、事務所全体のパフォーマンスに影響を与えます。
将来的な料金体系の変化
事務所が成長し、スタッフが増え、提供できるサービス内容が拡充していく過程で、顧問料の見直しが行われる可能性は十分にあります。契約当初の料金が永続的に保証されるわけではないことは、念頭に置いておくべきでしょう。
「税理士1名+スタッフ数名」事務所は、どんな企業に向いている?
では、どのような企業がこの規模の税理士事務所と相性が良いのでしょうか?
税理士本人とのコミュニケーションを重視しつつ、組織力も求める企業:
「税理士1名だけだと、病気や事故の時が不安…」「もう少し組織的な対応力も欲しい」と感じる一方で、「大手事務所のように担当者がコロコロ変わったり、税理士先生と直接話せなかったりするのは嫌だ」と考える企業にとっては、非常にバランスの取れた選択肢となります。
コストパフォーマンスを重視する企業:
大手事務所ほどの高額な顧問料は支払えないけれど、一定レベル以上のサービスは確保したい、というニーズに合致しやすいです。税理士本人の専門性と、スタッフによるサポート体制を、比較的手頃な価格で利用できる可能性があります。
成長過程にある中小企業:
現在、あるいは将来的に、自社の成長に合わせて税理士事務所にもある程度の組織力や対応力を求めたいと考えている企業にも適しています。自社の成長と歩調を合わせて、事務所側も少しずつ体制を強化していくことが期待できるかもしれません。
「税理士探し」「税理士変更」で失敗しないためのチェックポイント
この規模の事務所を検討する際に、特に確認しておきたいポイントをまとめました。「税理士紹介」サービスを利用する場合でも、最終的な判断のために、これらの点は直接確認することをおすすめします。
事務所の具体的な体制
- 税理士とスタッフの役割分担はどうなっているか?
- 自社のメイン担当者は誰になるのか?(税理士? 特定のスタッフ?)
- 日常的な連絡や相談は誰に行えばよいか?
- 打ち合わせには誰が同席するのか?
スタッフについて
- 担当になる可能性のあるスタッフの経験年数や資格(もしあれば)は?
- スタッフの定着率はどうか?(頻繁に入れ替わっていないか)
情報共有・品質管理体制
- 事務所内でどのように情報共有を行っているか?(例: 定期的なミーティング、情報共有ツールの活用など)
- 作成された書類(試算表、申告書など)は、税理士がどのようにチェックしているか?
将来的な展望と体制の変化
- 税理士は今後、事務所をどのようにしていきたいと考えているか?(規模拡大の意向、専門性の強化など)
- 事務所規模が変わった場合、クライアントへのサービス体制はどのように変化する可能性があるか?
- 顧問料の改定に関する方針は?
コミュニケーションと相性
- 税理士本人との相性はどうか?
- メイン担当者となる可能性のあるスタッフとも、可能であれば事前に話してみて、コミュニケーションの取りやすさや相性を確認する。
税理士紹介サービスの活用(補足):
複数の事務所を効率的に比較検討したい場合、「税理士紹介」サービスは有効な手段です。ただし、紹介された事務所にそのまま決めるのではなく、上記のチェックポイントなどを参考に、必ずご自身で面談を行い、納得のいくまで確認することが重要です。紹介サービスはあくまで「出会いのきっかけ」と捉えましょう。
会社の成長フェーズと税理士事務所の規模のマッチングが鍵
結局のところ、どの規模の税理士事務所が良いかは、会社の状況や求めるものによって異なります。そして、それは会社の成長とともに変化していくものです。
「ちょうど良い」関係性:
会社の成長段階や事業規模と、税理士事務所の組織体制や提供できるサービスレベルがうまくマッチしている間は、良好なパートナーシップを築くことができます。例えば、経営者がまだ税理士と密に相談したいフェーズで、税理士も直接対応してくれる体制であれば、満足度は高いでしょう。
ミスマッチの発生と「税理士変更」のタイミング:
しかし、会社が大きく成長し、より複雑な税務問題への対応、部門別の損益管理、あるいはIPO(株式公開)支援など、高度な専門性や組織的な対応力が必要になった時、契約している小規模事務所の体制では対応しきれない、と感じるようになるかもしれません。あるいは、経営者自身が多忙になり、税理士との打ち合わせ時間も惜しくなり、より効率的で安定した業務遂行を求めるようになることもあります。 このような「ズレ」が生じ始めた時、それは「税理士変更」を具体的に検討するタイミングと言えるでしょう。レスポンスの悪化、担当スタッフの知識不足、提案力の限界などを感じ始めたら、一度立ち止まって考える時期かもしれません。
まとめ:「税理士1名+スタッフ数名」事務所を理解し、最適な選択を
「税理士1名+スタッフ数名(~5名程度)」の小規模な税理士事務所は、税理士1名事務所の「属人性」と、中規模・大規模事務所の「組織力」の中間に位置する存在です。
メリットとしては、
- 税理士本人の実務経験が豊富になっている可能性
- 1名体制のキャパオーバー状態からのサービス安定化
- 比較的リーズナブルな顧問料
- 税理士本人との直接的な接点の維持
- 1名事務所の弱点(バックアップ、マンパワー)のカバー
などが挙げられます。
一方で、デメリットや注意点としては、
- スタッフによるサービス品質のばらつきリスク
- 情報共有・管理体制の重要性
- 将来的な税理士との接点の希薄化の可能性
- スタッフの教育体制や質の問題
- 将来的な料金体系の変化
などを理解しておく必要があります。
「税理士探し」や「税理士変更」を行う際には、これらのメリット・デメリットを踏まえ、自社の現在の状況、将来の展望、そして税理士に求めるサービスレベルを明確にした上で、事務所の体制や将来性、そして何よりも「相性」を慎重に見極めることが重要です。
会社の成長フェーズに合った、最適な税理士パートナーを見つけることが、貴社の健全な経営とさらなる発展に繋がるはずです。この記事が、そのための判断材料としてお役に立てれば幸いです。