設備投資の補助金選びで迷ったら、まず「何を実現したい投資か」を見極めることが肝心です。
ものづくり補助金は新製品・新サービス開発など“攻め”の投資、省力化補助金は自動化・省人化による生産性向上といった“守り”の投資が主戦場。対象経費、補助率・上限、成果指標(付加価値/労働生産性)、賃上げ要件、そして採択の傾向まで、制度のツボは大きく異なります。
本記事では両者の違いを一目で把握できるよう整理し、使い分けの判断軸、具体事例での当てはめ、どちらで行くと通りやすいかの視点、さらに失敗を防ぐ実務チェックリストまで網羅。自社の戦略と資金計画に最適な申請先を、短時間で決め切るための実務ガイドです。
両者の概要と目的の違い
「ものづくり補助金」(正式名称:ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)と「省力化補助金」(正式名称:中小企業省力化投資補助金)はいずれも中小企業の設備投資を支援する国の補助金制度です。
しかし、その目的や対象となる事業の性質には明確な違いがあります。
- ものづくり補助金
新製品や新サービスの開発といった“攻めの経営”を支援する制度です。革新的な製品・サービスの開発によって企業の付加価値向上(付加価値額の増加)を目指す取組みが対象になります。例えば、自社にとって初めての新商品開発や新分野への進出など、新しい価値創出に資するプロジェクトが該当します。 - 省力化補助金(一般型)
既存業務の効率化・自動化といった“守りの経営”を支援する制度です。IoT機器やロボットなどを導入して業務プロセスの省人化・効率化(労働生産性の向上)を図る取組みが対象になります。深刻化する人手不足の解消や生産工程の自動化によって、生産性を底上げするプロジェクトが該当します。
要するに、ものづくり補助金は「新しく何かを生み出す」取組みを、省力化補助金は「今ある仕事を効率化する」取組みを後押しする補助金と言えます。
自社の計画が新規事業開発なのか業務効率化なのかによって、まずどちらの補助金に適しているかが見えてきます。
補助対象経費・補助率・上限額など制度上の主な違い
両補助金は中小企業の設備投資を支援する点では似ていますが、制度上いくつか重要な違いがあります。特に、補助対象となる経費の範囲や補助金額・補助率の設定に違いがあるため、事前によく理解しておくことが大切です。
- 補助対象経費の違い
基本的には両者とも機械装置やシステム構築費、技術導入費、運搬費、外注費など設備投資に関わる費用が補助対象です。しかし、ものづくり補助金では試作品開発に必要な原材料費なども補助対象に含まれます。一方、省力化補助金では原材料費は対象外であり、あくまで設備導入やシステム構築に直接かかる費用が中心です。
例えば、新製品の試作のための材料購入費用はものづくり補助金で認められますが、省力化補助金では補助の対象になりません。 - 補助率(自己負担割合)の違い
両補助金ともに原則として中小企業は1/2補助(小規模事業者等は2/3補助)と定められています。つまり対象経費の半分(条件によっては3分の2)が補助金として賄われ、残りを自己負担する形です。
ただし大規模な投資になる場合の扱いに差があります。補助金額が1,500万円(=1500万円)以下の部分については両者とも同じ補助率ですが、1,500万円を超える部分については省力化補助金では補助率が1/3に下がるのに対し、ものづくり補助金(高付加価値化枠)はより高い補助率が適用されるため自己負担が相対的に少なくなります。実際、省力化補助金では補助対象経費のうち1,500万円超過分は1/3補助に切り替わる仕組みです。
この違いにより、同じ金額の設備投資でも、ものづくり補助金のほうが企業側の手出しが少なくて済むケースがあります。 - 補助金の上限額の違い
両補助金には企業規模に応じた補助上限額が設けられていますが、省力化補助金のほうが上限額は大きく設定されています。
ものづくり補助金(製品・サービス高付加価値化枠)の補助上限は従業員数や特例措置に応じて750万円~3,500万円程度となっており、中小企業の新製品開発に見合った額に留まります。一方、省力化補助金(一般型)は750万円~1億円と大幅に高い上限が設定されています。
例えば、従業員が101人以上の中堅企業の場合、ものづくり補助金では上限2,500万円(特例適用で3,500万円)ですが、省力化補助金では上限8,000万円(特例適用で1億円)まで申請可能です。そのため億単位の大規模な設備投資を計画している場合は、省力化補助金でないと対応できないケースもあります。 - 補助事業の要件の違い
両補助金とも申請には一定の成果目標を盛り込んだ事業計画書が必要ですが、その指標が異なります。
ものづくり補助金では事業計画期間中に「付加価値額」を年平均3.0%以上増加させ、給与総額等も年平均2.5%以上増加させることが基本要件とされています。これに対し、省力化補助金では「労働生産性」を年平均4.0%以上向上させ、給与総額等は年平均2.0%以上増加させることが求められます。いずれも地域別最低賃金+30円以上への引上げが共通要件となっており、人件費アップへのコミットメントが組み込まれています。
このように、ものづくり補助金は「付加価値の成長」に焦点を当て、省力化補助金は「生産性向上(省力化効果)の達成」に焦点を当てている点も制度上の違いです。 - 審査・評価の観点の違い
採択審査で重視されるポイントも異なります。
ものづくり補助金では技術的な新規性や市場性、成長性といった点が評価されます。開発する製品・サービスが市場でどれだけ有望か、その事業ストーリーが重視される傾向です。一方、省力化補助金では「省力化指数」と呼ばれる業務改善効果の高さ、つまり導入設備によって何%業務量が削減されるか等の定量効果が重視されます。
端的に言えば、ものづくり補助金は技術や市場ポテンシャルが評価の鍵となり、省力化補助金は具体的な生産性向上効果(投資対効果)の明確さが評価の鍵となります。
以上のように、両補助金は制度上ほぼ共通する部分(中小企業向け、設備投資支援、賃上げ要件あり等)も多いものの、対象経費の細部や補助金額のレンジ、要求される成果指標などに違いがあります。
それぞれの制度趣旨に照らして、自社の計画に有利に働く制度を選ぶことが重要です。
申請の使い分け方の基本指針(どちらを選ぶべきか)
では、実際に自社の計画に応じて「ものづくり補助金」と「省力化補助金」をどう使い分けるか、判断のポイントを整理しましょう。基本的な判断軸は次のとおりです。
- プロジェクトの内容・目的で選ぶ
自社の取り組みが新製品・新サービス開発による事業拡大なのか、あるいは既存業務の効率化・省人化なのかが最重要ポイントです。新たな商品開発やサービス展開で売上拡大を狙う「攻め」の投資であればものづくり補助金が適しています。逆に、現在の業務フローを見直して自動化・省力化し、生産性向上や人手不足解消を図る「守り」の投資であれば省力化補助金の出番です。
ものづくり補助金は既存製品の単なる生産プロセス改善などは対象外(新規性がないため)となる点に注意が必要です。自社の計画がどちらの趣旨に合致するかで申請先を選びましょう。 - 必要な予算規模で選ぶ
計画している設備投資の金額規模も判断材料です。数百万円~数千万円程度の投資であれば両補助金で対応できますが、1億円に近いような大型投資となる場合、省力化補助金でないと上限オーバーになります。一方、数千万円規模までの投資であればものづくり補助金でも十分対応可能です。
特に従業員数が多く補助上限額が高く設定される企業(50名超など)では、省力化補助金の方が手厚い補助を得られる余地があります。逆に小規模事業者で少額の投資なら、どちらを使っても上限額的な差はさほど大きくありません(※両者とも下限額は原則100万円程度です)。 - 資金使途の違いで選ぶ
投資計画に試作品開発や研究開発要素が含まれるかどうかもポイントです。
例えば、新製品の開発にあたり試作材料や設計費が発生する場合、そうした開発費用まで含めて支援してほしいならものづくり補助金を選ぶメリットがあります。一方、純粋に既存設備の更新・入替やシステム導入のみで、原材料等の費用は伴わない計画なら省力化補助金でも問題ありません。資金ニーズに照らし、どちらの補助対象経費範囲が適しているか検討しましょう。 - 採択ハードルで選ぶ
採択率(競争率)の違いも考慮に値します。後述するように、直近では省力化補助金の方が高い採択率で推移しており、比較的「採択されやすい」傾向があります。内容が両方の補助金に当てはまり得るケースでは、採択される可能性が高い方を選ぶという戦略もあり得ます。
ただし、申請要件に合わない制度を無理に選ぶと本末転倒ですので、あくまで事業内容との適合性を最優先しつつ、チャンスの高い方を検討してください。
採択内容や採択率の分析を実施しています!
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以上をまとめると、「新規事業の創出」vs「既存事業の効率化」という軸でまず判断し、次に必要な補助額や経費の種類、そして採択の難易度などを加味して使い分けるのが基本指針となります。
自社の経営課題や戦略に照らして、最適な補助金を選択しましょう。
よくある活用事例に基づく具体的な使い分け例
実際に中小企業がこれら補助金を活用した具体的な事例を見てみると、用途の違いが一層はっきりします。以下では、製造業のケースを例に2つの補助金の使い分け例を紹介します。
- ものづくり補助金の活用例
ある自動車用ネジ製造メーカー(従業員60名)が、自社の持つ加工技術を応用して新たに金属製建築資材の製造事業に乗り出すことを計画しました。そのために必要な新型加工機械を導入し、新製品で売上拡大を図るプロジェクトです。
導入費用は約2,400万円で、その1/2にあたる1,200万円をものづくり補助金で補助してもらうことができました。このケースでは、新分野への挑戦による付加価値創出という目的が明確であったため、ものづくり補助金の支援対象として適切だった例と言えます。 - 省力化補助金の活用例
上記と同じメーカーが、今度は既存のネジ製造ラインの生産性向上を目指したプロジェクトで省力化補助金を活用したケースです。従来の機械では1時間に100個のネジしか製造できなかったところを、1時間に200個製造可能な高速機械を新たに導入し、生産能力を倍増させようとしました。
その導入費用は同じく約2,400万円でしたが、省力化補助金では最初の1,500万円部分に1/2補助、超過する900万円部分に1/3補助が適用され、合計約1,050万円の補助金を受けることができました。結果として自己負担は約1,350万円となり、より少ない負担で生産ラインの大幅な効率化を実現した例です(ものづくり補助金では本ケースは対象外となる既存工程改善のため、省力化補助金を選択)。
上記のように、新事業創出にはものづくり補助金、現行業務の効率化には省力化補助金と、それぞれの得意分野に応じて使い分けることで効果的に補助金を活用できます。自社の課題と計画にマッチした制度を選ぶことが肝心です。
それぞれの採択率の傾向と比較
補助金申請を検討する上では、「どのくらい採択されやすいのか」=採択率の傾向も気になるポイントでしょう。最新の情報に基づき、ものづくり補助金と省力化補助金の採択状況を比較します。
ものづくり補助金の採択率傾向
当初(制度開始当初)の公募では採択率が50~60%台に達した回もありましたが、年々競争が激化し直近では30%前後が標準となっています。実際、令和6年度(2024年)実施の第18次公募では採択率約35.8%、令和7年(2025年)7月発表の第19次公募でも31.8%と、3割程度の狭き門になっています。
この傾向は、公募を重ねる中で制度運用が進み審査基準が厳格化した結果と考えられ、採択ハードルは年々高まっているといえるでしょう。つまり、ものづくり補助金は現在かなり競争率が高い状況です。
採択内容や採択率の分析を実施しています!
省力化補助金の採択率傾向
一方、省力化補助金(一般型)の第1回公募(結果発表:2025年6月)では採択率が約68.9%に達しました。応募1,809件中1,240件が採択され、おおよそ「3社に2社が採択」という高い水準です。この約69%という数字は昨今の他の主要補助金(ものづくり補助金や事業再構築補助金が25~35%前後)と比べても格段に高く、初回公募は非常に採択されやすかったことがわかります。政府が労働力不足対策として「省力化投資」を強く推進している姿勢が反映された結果とも言われています。
もっとも、第1回で採択率が高かったからといって今後も同じ水準が続く保証はなく、予算消化状況や応募状況によって次第に競争が厳しくなる可能性も指摘されています。したがって、「省力化補助金は通りやすいから大丈夫」と油断せず、申請の際は制度趣旨に沿った質の高い計画書作成が重要です。
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両者の比較まとめ
現時点では省力化補助金の方が採択される確率は高めですが、ものづくり補助金に比べ応募が始まったばかりであることを踏まえる必要があります。
ものづくり補助金は実質的な競争率が年々上昇しているため、綿密な事業計画書の準備や加点項目への対応など入念な対策が欠かせません。一方、省力化補助金は初回こそ高採択率でしたが、今後応募件数が増えれば採択率が低下し競争が激しくなる可能性もあり、こちらも油断できません。
両補助金ともに採択されるためのハードルは決して低くないことを念頭に置き、しっかり準備を進めることが大切です。
申請を検討する際のチェックリスト
最後に、これら補助金の申請を検討する中小企業経営者の方向けに、事前に確認すべきポイントをチェックリスト形式で整理します。申請準備段階で以下の点をチェックしておきましょう。
- 事業計画の適合性確認
自社の計画がどちらの補助金の目的・対象に合致するか確認します。新製品開発など革新的取組であればものづくり補助金、既存業務の効率化であれば省力化補助金が適切です。ものづくり補助金に申請しようとする計画が単なる現行プロセス改善になっていないか、省力化補助金に申請しようとする計画が新規事業開発寄りではないか、制度の対象範囲から外れていないかをチェックしてください。 - 基本要件のクリア
両補助金とも賃上げ要件や生産性向上等の数値目標が課されます。自社がその必須要件を満たせる見込みか事前に確認しましょう。例えば、ものづくり補助金なら付加価値額年3%以上増・給与総額年2.5%以上増、省力化補助金なら労働生産性年4%以上向上・給与総額年2.0%以上増といった計画目標が求められます。これらを達成できる事業計画であるか、数値根拠を含めてチェックしてください。特に最低賃金+30円引上げも両補助金共通で必須です。 - 資金計画と自己負担の把握
設備投資に必要な見積書や費用内訳を集め、補助金で賄われる部分と自社の自己負担額を把握しておきます。補助率(1/2もしくは2/3、超過分1/3など)の適用を計算し、自己資金や融資で賄う部分を準備できるか確認しましょう。また補助金は後払い(事後精算)方式である点にも注意が必要です。一旦は自社で全額立替えて支出し、後から補助金が交付される流れのため、資金繰り計画も重要なチェック項目です。 - スケジュール・体制の確認
公募の締切日程や今後のスケジュールを確認し、申請書作成に十分な時間を確保できるか検討します。採択後の事業実施期間も、ものづくり補助金はおおむね採択後1年程度、省力化補助金(一般型)は採択後18か月以内など期間が定められています。その期間内に計画した設備導入と運用開始まで完了できるかスケジュールをチェックしましょう。また、申請には事業計画書作成や必要書類の収集(例えば決算書、納税証明、場合によってはGビズID取得等)も伴うため、社内の準備体制や専門家支援の活用も含め検討してください。 - 申請書の内容チェック
作成した事業計画書が審査項目を網羅しているか最終確認しましょう。革新性・市場性・収益性の説明、あるいは省力化効果の定量的アピール、賃上げ計画の具体性、加点項目への対応など、公募要領で求められるポイントが盛り込まれているかをチェックします。不明瞭な点や説得力に欠ける点がないか、第三者の視点で見直すことも有効です。必要に応じて認定支援機関など専門家のアドバイスを仰ぐのもよいでしょう。 - 補助事業後のコミットメント確認
採択後は補助事業の実施報告や、その後数年間にわたる事業化状況報告などの義務があります。また、計画した賃上げ目標等を達成できなかった場合には補助金の返還を求められるリスクもあります。申請前に、こうしたアフターフォローの負担やリスクについても理解しておきましょう。特に、賃上げ目標の未達による補助金返還規定は双方の補助金で導入されていますので、自社が確実に目標を達成できる計画かどうか最終チェックが必要です。
以上のチェックポイントを押さえて準備を進めれば、どちらの補助金においても申請の精度が高まり、採択率向上につながるでしょう。
公式の公募要領や中小企業庁のサイトも逐一確認しつつ、不明点は専門家に相談するなど万全の体制で臨んでください。補助金の活用は中小企業にとって資金調達と成長加速の大きなチャンスです。適切に制度を見極めて申請し、ぜひ企業発展に役立てていただきたいと思います。
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