スキマバイトの源泉徴収票提出と賃上げ税制適用にあたっての留意点

近年、人手不足の影響もあり、スキマバイト(単発・スポット勤務)の需要が急速に高まっています。専用アプリを通じて、働き手が空き時間に数時間~1日単位で仕事を請け負う仕組みは、柔軟に働きたい人にとって魅力的です。

しかし、税務上の取り扱いには注意が必要です。特に「給与所得の源泉徴収票」の提出要否に関して、誤解しやすいポイントがあります。

今回は「スキマバイトの源泉徴収票提出と賃上げ税制適用にあたっての留意点」についてご紹介いたします。

目次

給与所得の源泉徴収票とは?

企業等が労働者へ給与を支払った際、原則として以下の2通を作成する必要があります。

  • 本人交付用
  • 税務署提出用

ただし、一定の条件に当てはまる場合、税務署への提出は不要となります。


提出不要ルール「年50万円以下」の仕組み

所得税法・所得税法施行規則に基づき、以下の条件に該当する場合は税務署提出が不要です。

  • 扶養控除等申告書を提出していない(乙欄または丙欄適用者)
  • その年中の給与支払額が50万円以下

スキマバイトは通常「日雇い契約」として扱われるため、多くの場合は丙欄適用者に該当します。

したがって、同一企業からの給与支払額が年50万円以下であれば、源泉徴収票の税務署提出は不要です。

判定は「アプリ別」ではなく「合計額」で

注意すべき点は、年50万円以下の判定はアプリごとではなく、企業から支払われた総額で行うことです。

■BさんがコンビニY社でスキマバイトを実施したケース

  • Aアプリ経由:年間22万円
  • Bアプリ経由:年間35万円

合計57万円(50万円超)となるため、Y社は源泉徴収票を税務署に提出しなければなりません。

このように、アプリごとの「年収制限」をクリアしていても、企業から支払われた総額が基準を超えれば提出対象になる点に注意が必要です。

アプリ側の制限と落とし穴

一部のアプリでは、企業側の負担を軽減するため、同一企業における収入上限(例:50万円)を設けているケースがあります。

しかし、これはあくまでアプリ内での制御に過ぎません。複数のアプリを併用する場合は、すべて合算して判定されるため注意が必要です。

市区町村への「給与支払報告書」の扱い

企業が市区町村へ提出する「給与支払報告書」についても、提出不要となるルール(年30万円以下)が存在します。

ただし、多くの市区町村は「少額でも提出を推奨」しています。そのため、実務上は金額にかかわらず提出するのが望ましいでしょう。

賃上げ税制との関係

さらに、スキマバイトに支払った給与は、一定の要件を満たす場合、賃上げ促進税制(所得拡大促進税制)の対象給与に含めることが可能です。

「国内雇用者」の定義

賃上げ促進税制における「国内雇用者」とは、法人等の使用人のうち、国内の事業所で作成された賃金台帳に記載された者を指します(措法42の12の5⑤二、措令27の12の5⑥)。

ただし、役員は対象外とされます。逆にいえば、賃金台帳に記載されていれば、パートやアルバイト、日雇い労働者なども対象に含まれることになります。

賃金台帳の役割

賃金台帳は、労働基準法に基づき、事業主が作成・保存を義務付けられている法定帳簿のひとつです(労基法108)。
記載が求められる内容は、労働者ごとの賃金額やその算定の基礎となる事項などで、法定の様式は特に定められていません。

つまり、必要な事項が網羅されていれば、独自のフォーマットであっても「賃金台帳」として扱うことができます。

スキマバイト(ギグワーカー)の取り扱い

スキマバイトアプリを通じて雇用したギグワーカーについては、一般的に、アプリ運営会社から企業に対して給与明細のような書類が提供されます。そこには賃金額など所定の事項が記載されています。

企業はこの明細を基に、自社の賃金台帳に必要事項を転記・整理しておけば、そのギグワーカーは「国内雇用者」として扱うことが可能です。場合によっては、アプリ運営会社から提供される書類自体が賃金台帳に該当することもあります。

また、アプリ運営会社が提供する明細書は、出勤簿の役割を兼ねている場合も多く、さらに労働者名簿として扱える情報が別途提供されるケースもあります。

  • スキマバイト(ギグワーカー)の人気が高まる中、税務上の取り扱いも注目されている。
  • 賃上げ促進税制における「国内雇用者」は、賃金台帳に記載されていればパート・アルバイト・日雇い労働者も含まれる。
  • アプリ運営会社が発行する給与明細や出勤簿を基に、自社で賃金台帳を整備すればギグワーカーも対象となる。
  • ギグワーカーを含めた正確な集計が、税制メリットを最大限活かすポイントになる。

スキマバイトの拡大は、企業の雇用形態や税務実務にも影響を与えています。正しい理解と管理が、節税とコンプライアンスの両立につながります。

まとめ

  • スキマバイトは日雇い契約が中心 → 丙欄適用者に該当
  • 源泉徴収票の税務署提出不要ルールは「年50万円以下」だが、アプリ別ではなく合計額で判定
  • 複数アプリ利用時は、同一企業からの支払額を合算して判定する必要がある
  • 給与支払報告書は30万円以下なら提出不要だが、多くの自治体は提出を推奨
  • スキマバイト給与も、適切に給与として支払われていれば、賃上げ税制の対象給与に含めることが可能

スキマバイトは便利な働き方ですが、企業側も労働者側も税務処理を誤るとリスクにつながります。正しい理解をもって管理することが大切です。

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