
中小企業の経営者や経理担当者の皆様、税理士選びや見直しで悩んでいませんか?会社の成長や変化に合わせて、「今の税理士事務所で良いのだろうか?」「税理士変更も視野に入れるべき?」と考えることは自然なことです。
前回までの記事では、①「税理士1名のみ(完全ワンオペ)」、②「税理士1名+スタッフ~5名(小規模チーム)」の事務所について解説しました。今回はその続きとして、もう少し規模が大きくなった**③「税理士1名+スタッフ6~10名(ミドルチーム)」**の税理士事務所に焦点を当てます。
税理士事務所の規模と典型的な人員構成(おさらい)
タイプ | 典型的な人員構成 | 本記事での位置づけ |
---|---|---|
① 税理士1名のみ | 完全ワンオペ | 解説済み |
② 税理士1名+スタッフ〜5名 | 小規模チーム | 解説済み |
③ 税理士1名+スタッフ〜10名 | ミドルチーム | ← 今回の記事 |
④ 税理士2〜3名+スタッフ〜20名 | 複数税理士体制 | 今後の記事で解説 |
⑤ 税理士複数名+スタッフ30名〜 | 大規模・準大手 | 今後の記事で解説 |
スタッフが5名を超え、10名程度になってくると、税理士事務所の内部体制やクライアントとの関わり方に、新たな変化が現れてきます。「税理士紹介」サービスで見かけることも増え、「税理士探し」の候補としても具体的になってくる規模です。
この記事では、この「ミドルチーム」とも言える規模の税理士事務所の特徴、メリット・デメリット、そして「税理士変更」や新規契約を検討する際の重要な注意点について、詳しく解説していきます。自社に最適なパートナーを見つけるための判断材料として、ぜひご活用ください。
組織の変化:「プレイヤー」から「マネージャー」へ移行する税理士
スタッフが5名を超え、10名規模に近づくと、税理士事務所は単なる「個人の専門家+補助スタッフ」という状態から、明確な「組織」としての運営が求められるようになります。
税理士の役割の大きな転換点
この規模になると、税理士は自身が第一線で全てのクライアントの実務を行う「プレイヤー」としての役割に加え、事務所全体を運営・管理する「マネージャー」としての役割が急速に重要になります。スタッフの採用、育成、業務の割り振り、進捗管理、品質管理、さらにはスタッフ間の人間関係の調整やトラブル対応など、内部のマネジメント業務に多くの時間とエネルギーを割く必要が出てきます。
スタッフの評価制度やルールの整備
少人数のうちは、阿吽の呼吸や税理士の直接的な指示で回っていた業務も、10名近くになると、より明確なルールや業務フロー、そしてスタッフの働きがいにも繋がる公正な評価制度の整備が不可欠になります。これらが整備されていないと、業務の属人化が進んだり、スタッフの不満が溜まったりする原因となりかねません。
クライアント対応の変化:スタッフが前面に出る場面が増加
税理士がマネジメント業務に時間を取られるようになる結果、必然的に税理士本人が全てのクライアントに直接対応することは物理的に難しくなります。顧問料が高額な重要クライアントや、特に複雑な相談事などを除き、日常的なコミュニケーションや打ち合わせ、資料の受け渡しなどは、担当のスタッフがメインで行うケースが増えてきます。「税理士先生に直接見てもらいたい」という要望に、常に応えるのが難しくなるフェーズです。
ただし、会社規模が大きくなってきて、社内に経理組織ができてきている場合には、ちょうどよい関係性になること多いです。日々のやりとりは、会社の経理スタッフと会計事務所の事務スタッフが実施し、重要な情報についてだけ経営者と税理士がすり合わせるといった形でお互い良い形の分業体制が確立できることもあり、お互いのフェーズによってはかなり良い関係が築けます。
組織としての安定感は向上
一方で、人員が増えることで、業務の継続性や対応力は向上します。特定のスタッフが休んだり、退職したりしても、他のスタッフがカバーできる体制が整いやすくなり、1~5名規模の事務所と比較すると、組織としての安定感や安心感は増すと言えるでしょう。
メリット:組織力がもたらす安定と可能性
この規模の事務所が持つ組織力は、クライアント企業にとってもメリットをもたらします。
強化されるバックアップ体制と業務継続性
税理士本人や特定の担当スタッフが不在の場合でも、他のスタッフが代理で対応したり、情報を共有したりする体制が整っている可能性が高まります。これにより、急な問い合わせへの対応や、決算・申告などの重要な業務が滞るリスクが低減します。これは、経営者や経理担当者にとって大きな安心材料となるでしょう。
分業による効率化と専門性の萌芽
スタッフが増えることで、記帳代行、給与計算、各種申請業務など、業務分野ごとの分業が進みます。これにより、業務の効率化が図られるだけでなく、特定の業務分野に詳しいスタッフが育ち、事務所全体として対応できる業務の幅が広がったり、専門性が高まったりする可能性があります。
多様なニーズへの対応力向上
組織として様々なクライアントを担当する中で、知識や経験が蓄積されていきます。異なる業種特有の会計処理や、補助金申請、融資相談など、より多様な経営課題やニーズに対応できるキャパシティが生まれてきます。税理士1名では難しかった領域への対応も期待できるかもしれません。
標準化による一定のサービス品質(期待値)
組織として運営するためには、業務マニュアルの整備やチェック体制の構築が進んでいることが多いです。これにより、担当者による品質のばらつきを抑え、一定レベルのサービス品質を維持しようと努めている事務所が増えます。ただし、これは後述するデメリットと表裏一体であり、事務所の方針やマネジメント次第な側面もあります。
デメリットと注意点:見極めが重要になる「組織の壁」
組織化が進む一方で、この規模ならではのデメリットや注意点も顕在化してきます。「税理士探し」や「税理士変更」の際には、これらの点を慎重に見極める必要があります。
税理士との距離感:顔が見えにくくなる
最も多くの経営者が懸念するのがこの点かもしれません。税理士がマネジメント業務に注力する結果、以前のように気軽に税理士本人に相談したり、頻繁に打ち合わせしたりすることが難しくなる可能性があります。重要な判断を仰ぎたい時に、すぐに税理士と話せない状況に、もどかしさや不安を感じるかもしれません。
ただし、先ほどもお伝えしましたが、会社の組織フェーズと会計事務所の組織フェーズがちょうどマッチしていれば、おそらく経営者と税理士が頻繁にすり合わせをする機会はかなり少なくなってくるため、その場合には、ちょうど良い形で落ち着くことも多いです。一方で、会計事務所の規模は大きくなっても、会社側の規模が小さなままで経営者が1人で多くのことを実施している状況の場合には、お互いのフェーズがずれてしまい、税理士本人に相談したり、頻繁に打ち合わせができないことに対する不満が出てくることもあると思います。
担当スタッフへの依存度上昇と品質変動リスク
日常業務のメイン担当がスタッフになるため、そのスタッフ個人の能力、経験、コミュニケーションスキル、そして責任感によって、サービスの質が大きく左右されます。優秀なスタッフに当たれば問題ありませんが、経験の浅いスタッフや、相性の悪いスタッフが担当になった場合、満足のいくサービスを受けられない可能性があります。
「スタッフ退職」という最大のリスク
この規模の事務所で特に注意したいのがスタッフの退職リスクです。担当スタッフが突然辞めてしまうと、業務の引き継ぎがうまくいかず、一時的にサービスが低下したり、コミュニケーションに齟齬が生じたりする可能性があります。特に、頻繁にスタッフが入れ替わるような事務所は、内部に何らかの問題(労働環境、マネジメント、クライアントの質など)を抱えている可能性があり、注意が必要です。
コミュニケーションの複雑化と伝達ミス
クライアント(経営者・経理担当者)↔担当スタッフ↔税理士というコミュニケーションラインになることが増えるため、情報伝達の過程で認識の齟齬や意図の取り違え、対応の遅れなどが生じるリスクが高まります。事務所内の情報共有システムや報告体制がしっかり機能しているかが重要になります。
マネジメント能力がサービス品質を左右する
税理士自身のマネジメント能力が、事務所全体のサービス品質に大きく影響します。スタッフの能力を引き出し、適切に育成・管理し、働きがいのある環境を提供できているか。もし税理士がマネジメントに不慣れだったり、不得手だったりする場合、スタッフの士気が低下し、離職率が高まり、結果としてクライアントへのサービス品質低下に繋がる悪循環に陥る可能性があります。
顧問料と事務所戦略の二極化
この規模の事務所は、顧問料設定や経営戦略において、二極化する傾向が見られます。一つは、組織化に伴うコスト増を反映し、顧問料が上昇していく事務所。もう一つは、逆に低価格を武器にクライアント数を増やし、さらなる規模拡大を目指す事務所です。後者のタイプの事務所を選ぶ際には、特に注意が必要です(詳細は後述)。
【最重要ポイント】事務所タイプの見極め:「規模拡大」か「品質重視」か?
「税理士1名+スタッフ6~10名」規模の事務所を検討する上で、最も重要と言っても過言ではないのが、その事務所がどのような経営方針・戦略をとっているかを見極めることです。大きく分けて、以下の2つのタイプが存在します。
タイプA:規模拡大・低価格戦略を重視する事務所
特徴:
- クライアント数を増やすことを最優先目標に掲げている。
- 顧問料を相場よりも安価に設定し、価格競争力をアピールすることが多い。
- Web広告や税理士紹介サービスなどを活用し、新規顧客獲得に積極的。
- 効率化を重視し、業務を徹底的にマニュアル化・分業化している場合がある。
メリット:
- 顧問料を安く抑えられる可能性がある。
デメリット:
- スタッフの入れ替わりが激しい傾向: 低価格維持のために人件費を抑えたり、業務負荷が高かったり、あるいは「質の悪い」クライアント(無理な要求が多い、支払いが悪いなど)も受け入れたりすることで、スタッフが疲弊し、定着しにくい環境になっている可能性がある。
- サービス品質の不安定さ: スタッフの定着率が低いと、経験の浅いスタッフが担当になったり、引き継ぎが不十分になったりして、サービス品質が不安定になりやすい。「安かろう悪かろう」のリスクが潜む。
- 税理士との接点は極めて限定的: 税理士は新規顧客獲得や経営に専念し、クライアント対応はほぼスタッフ任せというケースが多い。
- 数をこなすための画一的な対応: 個別の事情に合わせた柔軟な対応よりも、マニュアル通りの画一的なサービス提供になりがち。
タイプB:専門性・サービス品質を重視する事務所
特徴:
- クライアント数を急激に増やすことよりも、既存クライアントへのサービス品質維持・向上を重視している。
- 特定の業種や業務分野(例: 医療、相続、国際税務など)に強みを持ち、専門性を高めている。
- 顧問料は安価ではないが、提供価値に見合った適正価格を設定している。
- スタッフの育成や定着にも力を入れている傾向がある。
メリット:
安定した質の高いサービス: 経験豊富なスタッフが定着しており、組織的なチェック体制も機能しているため、安定したサービス品質が期待できる。
専門的な相談への対応力: 特定分野の専門性が高く、複雑な相談にも対応できる可能性がある。
組織的な安定感: スタッフの定着率が高く、組織として安定しているため、長期的なパートナーシップを築きやすい。
デメリット:
- 顧問料は比較的高め: 品質や専門性に見合った価格設定のため、低価格戦略の事務所よりは高くなる。
- 税理士との直接的な接点はやはり限定的: 重要事項以外は、担当スタッフとのやり取りが中心になることが多い。
どちらのタイプかを見極めるには?
- ホームページ: 料金体系(安さを強調していないか)、得意分野、事務所の理念や所長のメッセージ、スタッフ紹介(定着率のヒント)などを確認。
- 面談時の質問:
- 事務所の経営理念や大切にしていることは?
- 得意な業種やサービスは?
- スタッフの平均勤続年数や教育体制は?
- どのようなクライアントが多いか?(質を重視しているか)
- 顧問料の基準とサービス範囲は?
- 紹介元からの情報: 税理士紹介サービスを利用する場合は、担当者に事務所の評判や特徴(どちらのタイプに近いか)を尋ねてみる(ただし鵜呑みにしない)。
この見極めを誤ると、「安いと思って契約したけど、担当者がコロコロ変わって話が通じない」「品質を期待していたのに、税理士先生と全く話せない」といったミスマッチが生じ、結局「税理士変更」を繰り返すことになりかねません。
「税理士探し」「税理士変更」を成功させるための具体的アクション
この規模の事務所を検討する際には、以下の点を具体的に確認しましょう。
- 経営方針・理念の確認: 上記の「タイプA」か「タイプB」かを見極めるためにも、事務所が何を大切にしているのかを必ず確認します。
- 担当者(スタッフ)との面談: 可能であれば、契約前に実際に自社の担当になる可能性が高いスタッフと面談させてもらい、経験や人柄、コミュニケーションの取りやすさを確認します。
- 料金体系とサービス範囲の明確化: 顧問料に具体的に何が含まれているのか、記帳代行、給与計算、年末調整、税務調査対応などは別途費用が発生するのか、追加料金の基準などを明確に書面で確認します。特に低価格を謳う事務所の場合は、後から追加費用がかさむケースもあるため注意が必要です。
- コミュニケーション手段・頻度の確認: 誰(税理士orスタッフ)と、どのような手段(電話、メール、チャット、Web会議、対面)で、どのくらいの頻度でコミュニケーションを取れるのかを確認します。レスポンスの速さに関する期待値も伝えておくと良いでしょう。
- 実績・得意分野の確認: 自社の業種や、今後必要となりそうなサービス(例: 融資支援、事業承継など)に関する実績やノウハウがあるかを確認します。
- 紹介サービス利用時の注意点: 税理士紹介サービスは多くの事務所情報を持っていますが、紹介されるがままに契約するのではなく、必ず複数の事務所と面談し、自社の目で比較検討することが重要です。紹介担当者の意見は参考にしつつも、最終判断は自分で行いましょう。
自社に最適なのは?マッチングの考え方
結局のところ、どの事務所が最適かは、会社の状況と求めるものによって異なります。
タイプA(規模拡大・低価格)が選択肢になる可能性のある企業:
- とにかくコストを最優先したい。
- 税務申告や記帳代行など、基本的な業務を正確に行ってくれれば十分。
- 税理士との密なコミュニケーションや経営アドバイスは特に求めていない(ただし、サービス品質の不安定さや担当者変更のリスクは許容する必要がある)
タイプB(専門性・品質重視)が有力な選択肢となる企業:
- 安定したサービス品質と、組織的なバックアップ体制を求めている。
- 自社の成長に合わせて、将来的に高度な税務相談や経営アドバイスも期待したい。
- 適正なコストを支払ってでも、信頼できる長期的なパートナーを探している。
- 大手・準大手事務所ほどの規模やコストはまだ必要ない、あるいは敷居が高いと感じている成長企業。
会社の成長フェーズに合わせて、求める税理士像も変わってきます。以前はコスト重視だった企業も、事業が拡大し、従業員が増え、経営課題が複雑化するにつれて、より専門性や組織的な対応力を求めるようになるのは自然なことです。
まとめ:「組織力」と「事務所の個性」を見極める
「税理士1名+スタッフ6~10名」規模の税理士事務所は、組織としての安定感が増し、対応力や業務継続性が向上するというメリットがある一方で、税理士との距離感や担当スタッフへの依存度、そしてスタッフ退職リスクといったデメリット・注意点も顕在化してくる段階です。
この規模の事務所選びで最も重要なのは、その事務所が「規模拡大・低価格戦略」なのか、「専門性・サービス品質重視」なのか、経営方針を見極めることです。これにより、期待できるサービスレベル、顧問料、そして潜在的なリスクが大きく異なります。
「税理士探し」や「税理士変更」を行う際には、単に事務所の規模やホームページの印象だけで判断するのではなく、
- 事務所の理念や経営方針
- 具体的なサービス体制と料金体系
- 担当者となるスタッフの質や定着率
- そして自社との相性
などを多角的に評価し、慎重に比較検討することが、後悔しないための鍵となります。
自社の状況と将来像に真にマッチした税理士事務所というパートナーを見つけることができれば、それは貴社の持続的な成長を支える、かけがえのない財産となるでしょう。この記事が、そのための有益な情報となれば幸いです。